あの空に にている

Coco

第1話

 「今回はいつまで入院になるんだろうか---。」

そう悩みつつも病院へ向かう。

高校2年生のころ、潰瘍性大腸炎と診断され半年毎の入院生活を余儀なくされた。

今回の入院でもう10回目になる。

病気と持ち前の人見知りのおかげで高校を卒業してから一度も恋人ができず大学でも数人の友達と日々を過ごしていた。

大学は、なんとか滑り込みで入学できたもののこの病気のおかげで休むことが多く授業についていくのがやっとであった。


運転中の兄に対して

 「前回の入院は1週間ぐらいだったから今回もそれぐらいかなぁ。」

そうゆきは問いかけるも、兄からの返事はかえってこない。


 「そろそろ着いたぞ。」

そう、ぶっきらぼうに兄はゆきに伝えともに病院へ入ってゆく。

今度はゆきが何も返事をしない。


----

 「先生、今回も1週間で帰れますかね?」

そう、主治医に問いかけるも

 「それは大腸の調子が良かったらですねぇ。」

と、だけ言い検査準備を始める。

 「わたし、この大腸カメラ嫌いなんだよねー。特に事前準備の下剤がさー何とも言えない梅味でとっても不味いんだよねー。」

と愚痴をこぼすも

 「薬がおいしいわけないだろうが。」

と、兄に一蹴されてしまう。

しぶしぶと検査に向かうゆきだったが、下剤を飲むのを躊躇してしまい、兄に怒られしまいには無理やり飲まされた。

 「ほんと二人は仲いいですねー。」

この場で和やかに会話しているのは主治医だけである。


 検査後、ゆきと兄は入院手続きを済ませこれからお世話になる看護師さんたちへ挨拶をしこれから長くお世話になる病室へと入っていった。

 「せんせー、検査結果はどうでしたか??」

 「今回はまだ大腸は大丈夫そうなのでおそらくすぐに退院できると思いますよ。」

 「ほんとですか!!やった!!」

 予想外の回答に安堵したゆきは浮かれ気分で身支度を整えていく。

 

それから入院してから3日間は何事もなく、病院での生活を工夫しながら楽しく過ごしていた。

この時、寂しさを紛らすためスマホの広告に出てきたとあるチャットアプリで紛らわせていた。

そこは、様々な年齢の人と会話ができ決して出会い系などではなく気軽に楽しめるサービスだった。

そこで、数人とやり取りをしていたがある一人の男性に惹かれることになる。

それが大輔だった。

10歳上の彼はとても落ち着いており互いに今何をしているか、何を食べたかなどとりとめのない会話を楽しんでいた。

ゆき自身も、彼との会話が1日の楽しみでありほぼ1日中会話を楽しんでいた。

彼には、病気のこともいまの状態もなにも気にすることなく伝えることができ、彼も受け入れてくれていたとさえ思う。

この日も夜遅くまでやり取りをし楽しい時間を過ごしていた。

このあと予想外のことが起きるとも知らずに・・・


4日目の午後、いつもの定期健診でまさかの喉に腫瘍があることを知らされた。

いわゆる咽頭癌だった。

 「わたし・・癌なんですか?

  まだ生きれますよね・・」

そう半ベソをかきながら主治医に相談する。

 「現段階では正直何ともです。まずは手術をして腫瘍を取り除かないことにはそれが悪性なのか良性なのかはわかりません。ただ、腫瘍がある場所は声帯に近くもしかすると、声が出なくなる可能性があります。」

これは主治医にとっても酷な報告だった。

21歳という若さで声を奪ってしまう可能性があるということは、彼にとってもやるせない気持ちになっていた。

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あの空に にている Coco @cocoa_yuki

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