おクスリ饅頭をフェミニスト幽霊に食べさせろ!

テマキズシ

おクスリ饅頭をフェミニストお化けに食べさせろ!!!


「ハア…ハア…ハア…。何だったんだ…。あの怪物は?」


俺は最近登録者が10万人を越えたばかりの若手ユーチューバー。今回はとある心霊スポットに写真撮影に来ていた。


心霊スポットはかつては栄えてたとある町の中心にある診療所。なんでも昔政府の実験があったと言う逸話まであるらしい。俺みたいな人間にとっては格好のエサだった。


しかし病院に着くとおかしな事が起こった。急に診療所全体の電気がついたのだ。


今まで何度かこういった心霊現象に遭ったことはあるがここまでのモノは初めてだった。ヤバいと思い直ぐに車に戻ろうとした。その時だった。


「おとこおおおおおお!!!!!!!ころすすううううあ!!!!」


見たことのないほど醜悪な面をしたおばさんが車の下から這い出てきたのだ。車は派手に吹っ飛んで、バガンと嫌な音が鳴り響く。


俺は怖くなっておばさんがいる方向とは反対の方。診療所の中へと逃げてしまった。おばさんは何故か分からないが診療所の中には入ろうとしてこない。まるで獣を追い詰める猟師のようだ。


「おんなにおとこがさからうなああああああああ!!!!わたしにみつぎなさあいいいい!!!」


出入り口の前にはあのおばさんが鎮座している。驚いたことにあのおばさんは空を飛んでいた。フワフワフワフワ浮いているその姿はまさに幽霊。


とりあえず別の出入り口を探そう。俺は立ち上がると、外にいるおばさんに見つからないように慎重に移動を始めた。


窓からの脱出はできるかもと試してみたが、かなり昔の施設なので窓が開かない。壊すしかないが、もし割ってしまったらおばさんにバレて襲いかかることだろう。


どうする…。どうすれば良い?俺はボロボロになっている診療所内部を探索する事にした。


といっても大したものはない。もう使い物にならない壊れている医療道具。後は穴だらけになりボロボロのカルテや本ぐらいだ。


「…ん?何だコレ。」


机の裏にはなにか無いかと覗き込んでみると、なにかが机の裏に落ちていた。すぐに拾って確認してみるとそれは写真入れだということが分かった。


ガラスの部分が割れてしまっているがこれはまだ綺麗。息を吐いて埃を払うと、そこには恐らく夫婦であろう二人の男女が写っていた。


男の方は白衣を着ているので、恐らくここの医者だったのだろう。女の方はまるで女神のように美しい。和服美人といった感じ。写真ごしだというのに美しさで息を飲んでしまった。


「ああくそ。何してんだ俺…。さっさと探索を続けないと。」


部屋を次から次へと探していくが何も見つからない。最後に残されたのはもう外からも中が見えるほどにボロボロになった倉庫。


俺は倉庫の中を漁り始めるが、どれもまともに使える状態ではない。ここまでなのだろうか。俺は焦る心を必死に押し殺して床に大量に落ちている道具を拾い始めた。


どれくらい漁っていただろうか。焦りの余り体感時間がよく分からなかったが、それなりに時間が経ったとき、それが現れた。


「穴?地下室か?」


戦前のシェルターのような穴が出現した。もしかしたら外に通じる秘密の出入り口かもしれない。何故こんな所に穴があったのか。疑問は残るが今は調べてみないことには始まらない。


スマホのライトで照らして中に入っていく。そこまで進むことなく一つの扉が現れた。鍵は必要ではなかったので、ケガをしないように慎重に扉を開けていく。


「クッサ!!!……………何だコレ?」


ドアを開けて最初に感じたのは血の匂い。あまりの生臭さに吐きそうになるのを必死に押しこらえる。


部屋はライトの光があったので、中にある異様な光景に目がいった。まるで映画とかでよくあるような敵キャラの持つ実験場のよう。様々な機会や医療道具が並べられており、その中央にはベットが一つ置かれている。


「なんで…何でこんな所に?!!!」


そのベットは地面に直接固定されており、一人の女性が拘束されていた。俺は…その女性に見覚えがあった。


おばさんだ。俺に襲いかかってきたおばさんがそこに拘束されていた。精神病院なんかでありそうな拘束具が全身を覆っており、決して逃げられないようにされていた。


「こいつが死んで幽霊になったのか?」


不思議に思いながらも周囲を探索する。先ほどまでは慌てすぎて泣きそうだったが今はもう一周回って冷静になっていた。


ドアの対角線上にある机。遠目だがそこに本のようなものが見えた。なるべくベットには近づかないように慎重に移動し、本を見る。不思議なことにこの本は何故か綺麗なままだった。どうやら日記のようだ。




〇月✕日


とうとうこの日が来た。


世界一美しく可愛い私の妻。とうとう今日結婚式を挙げ、診療所の立ち上げもできた。これからは彼女と二人で頑張っていこう!



〇月✕日


今日は妻の大好きな劇を見るために都会までいった。妻はビーターエンド?というものが好きらしく、よく見ているが私には何が面白いのか分からない…。


後々調べてみると、ビーターエンドは外国の言葉らしくハッピーでもない不吉な終わりのことを言うらしい。妻はもしかしてかなり変わっているのでは?


まあそんな妻も日本一可愛いのだがな!!!



〇月✕日


政府の人間がこの町に変な工場を建て始めた。なんでも戦争に勝つために必要なことなのだとか。何も起こらなければいいが…。



〇月✕日


今日は出張。妻の大好きな饅頭をついでに買うことにしよう。妻は饅頭が大好物。私との出会いも近くの茶屋だった。これにあうお茶を探さなければ。



〇月✕日


今日の朝電報が届いた。なんでも工場で事故が発生し、近くにいた妻が事故に巻き込まれ重体だそうだ。


朝イチの電車に乗ることができたが、街に着くのは明日になる。



頼む…無事でいてくれ。



〇月✕日


あの事故から一ヶ月が経った。妻は未だに目を覚まさない。政府は大量の金だけ払い、謝ることなくこの話を終わらせた。


政府は許せない。だが今はそれ以上に妻を助けなければ。医療機関に居る友達を集め、彼女の目を覚ます方法を探るとしよう。



〇月✕日


事故から1年が経った。まだ目を覚まさない。




〇月✕日


事故から3年。神様…。




〇月✕日


目を覚ました!!!事故から4年ほど経ったが何とか目を覚ましてくれた!!!怪我はもう治ってる。彼女は助かったんだ!!!!


ただ彼女は状況が理解できなかったようで、目が覚めるが否や大暴れしてしまった。すぐに眠らせたので何人かがケガを負うだけで済んだ。目が覚めたら状況を説明しよう。



〇月✕日


一体彼女に何があったと言うんだ!!彼女は昔とは大きく変わってしまった。


男性を異様に嫌悪し、夫である私や実の父親に対しても暴力や暴言を振るってくる。脳の異常なのだろうか。詳しく調べてみなければ…。



〇月✕日


政府のクソ野郎どもがああ!!!!



〇月✕日


彼女に何があったのか、ようやくその理由が分かった。政府のせいだ。


どうやら政府は海外に攻め込むために、内部から分裂させてやろうとフェミニストと呼ばれる存在を作り出すガスを作っていたらしい。


しかし計画途中で工場は吹き飛び、戦争には負けた。その事でこの計画はなかったことにされたらしい。しかし彼女は事故の際に偶然そのガスを吸ってしまいこうなったらしい。


政府にいた元官僚が教えてくれた。今は偶然残っていたサンプルを元にして治療薬を完成させようとしている所だ。


待っていてくれ。必ず直してみせるから。



〇月✕日


妻は女性の至高の存在という思考に束縛されている。これをどうにかするためには別の思考で彼女の脳を埋めたほうがいいのかもしれない。


拘束具を付けたが暴れるのを止めてくれない。ご飯も拒まれてしまう。早く完成させなければ。嫌な予感がする…。



〇月✕日


後もう少し…。後もう少しで薬が完成する。薬の形状は妻の大好きな饅頭の形にしておいた。これなら彼女も気に入ってくれることだろう。


それにしても大変だった。今回の薬を作るために大量の男尊女卑の人間を誘拐し、その思考を奪っておいた。政府の高官共がある日急に思考が変わったとなれば政府は大混乱だろう。


その事を考えると笑いが止まらない。



〇月✕日


















妻が死んだ








〇月✕日


どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして







〇月✕日


どれだけ調べても原因が分からない。まさかガスの副作用か何かか?なんてことだ…。薬が丁度完成したばかりで油断していた…。


数ヶ月経ったというのにまだ心が落ち着かない。最近診療所の中から変な声が聞こえてくる。暫く診療所を閉め休むことにしよう。


この饅頭はどうしようか…。念の為地下の冷蔵庫に保管しておこう。



〇月✕日


妻が







日記はここで途切れている。ここから先は血塗れで読むことができない。恐らくこのタイミングでフェミニストとなった妻の幽霊に襲われたのだろう。


近くの冷蔵庫を開けると饅頭が入っていた。こちらも長い年月が経っているというのにまるで入れたばかりのよう。


饅頭を手に持つと、日記の男の事が頭の中に浮かんでいく。これは彼が命を賭して作り出したものだ。しかし結局これを使うことなく彼は死んでしまった。無念だっただろう。夫婦の人生はバットエンドに終わってしまったのだ。


「…あれ?」


気がついた時には血が出てしまうほど強く唇を噛んでいた。お世辞にも俺はいい人間とは言えない。むしろクズの部類だ。それなのに俺の心には無念の気持ちが浮かんでいた。


俺ができるとこは何かないだろうか?夫婦が死んだ以上2人の人生はバットエンド。ハッピーエンドには決してなれない。


でもせめて…せめてビターエンドにはできただろうか。ほろ苦く、切ないエンドでも何もできなかった不快なだけのエンドよりは良いはずだ。


「くそっ!」 


気がつくと俺は饅頭片手に走り出していた。これは賭けだ。もし、もし幽霊がこの饅頭を食べれるならば、彼女はガスにやられる前の優しかった頃に戻れるかもしれない。


失敗したら俺は死ぬだろう。もしかしたらこのクスリでは治らないかもしれない。でも、それでも俺の体は動き出す。俺は地下室を飛び出て窓へと向かう。


近くにある椅子を使って勢いよく窓硝子を割ると、音に引き寄せられてきた彼女相手に椅子を投げつけた!


「おとこおおおおおおお!!!!金〇切り落とされちまえええええええ!!!!!」


聞くに耐えない悲鳴をだし、椅子が当たった顔を押さえだす。間違い無い!車を壊したときから不思議に思っていたがやはり彼女には実体がある。


なら!彼が作ったおクスリ饅頭も食べられるはずだ!!!


「食えええええ!!!!!!」


窓枠に足を乗せ、勢いよく飛び上がる。バスケ部で鍛えた足腰の強さ。今こそ見せてやる!


全力の跳躍で奴の口元に俺の手をやると、ダンクの要領で勢いよく口の中に饅頭を突っ込んだ。


決まった…。饅頭は奴の口の中に入ったんだ。


「おおぉぁ…。」


悲鳴を上げていた彼女は次第に静かになっていく。勢いよくやりすぎたからか最初は喉を抑えるようなポーズをとっていた。そして次第に咀嚼しているのが分かる。


幽霊なのに喉が詰まるのか…?と一瞬疑問に思ったがすぐに彼女の方を向き、いつでも逃げられる態勢をとっておく。


だがその必要はなくなった。彼女は次第に涙を流し、体が縮んでいった。


「ああ…貴方……。貴方……。ごめんなさい。ごめんなさい。私のせいで…。」


そしてあの写真に写っていた時のような美貌が戻っていく。しかしその相貌は哀しく、悲惨なものだった。その場で崩れ落ち、ただひたすら泣き崩れている。キラキラ体が輝いており、もうすぐ成仏するんだと何故か確信できた。


「奥さん…。俺は慰めるなんてしたことがないから、あんたにどんな事をいえばいいか分からない。だから俺が思ったことを言っていくよ。」


「奥さんは恐らくだがそのフェミニストの思想の強さでそんな恐ろしい幽霊になった。現にその思想を失った瞬間から体が崩れ落ちている。じゃあ…夫さんの方はどうだ?奥さんを助けたいと願う夫さんの願いは強いはずだ。」


俺は診療所を指さし、言った。


「なんでこの饅頭は無事だった?日記帳もそうだ。まるで誰かに過去を知って、饅頭を食べさせてほしいと言わんばかりじゃないか。」


「……まさか!」


ここまで話したら奥さんも俺の言いたいことが分かっただろう。ここで一気に畳み掛ける。


「その通り。夫さんも幽霊となってこの診療所にいたんだ。しかし幽霊としての力はそこまでなかった。だから冷蔵庫や日記といった貴方を助けるのに必要な物をひたすらに守り続けていたんだ。」


「あなた……。」


彼女が感極まったタイミングで、診療所の電気がチカチカと消え始める。


「どうやらこの電気も夫さんが付けていたみたいだ。彼は君が助かったのを見て成仏していったのかもね。奥さん。貴方は夫さんに心の底から愛されているんだ。だからもし貴方が彼に償いたいと思っているのなら、死後の世界で彼を支え続けてください。きっと夫さんもそれを望んでいます。」


「あ……とう。」


これで良かっただろうか。彼女は消えていく前に俺にお礼を言ってきた。診療所の電気は完全に消え、暗闇の中に静寂だけが残った。


「…帰るか。」


俺はライトの光量を上げ、帰路につく。二人の人生は少しはいいエンディングを迎えられただろうか…。


死後どうなるかなんて誰にも分からない。だからせめて祈ろう。二人のこれからが幸せであるように。

















「あれ?!車が壊れてる!…そうだあの時車を壊されたんだ!………歩きだと人里に十時間はかかるぞ…。ちくしょおおおおおお!!!!」



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