秋
1.
いよいよ文化祭が近づき、いつもより練習量を増やして励んでいた。
いまでは平日唯一のオフ日は水曜日で、部活が無い紫貴と一緒に私が食べたがっていたクレープ屋さんに来た。
と言っても紫貴は甘いものを積極的に食べる訳では無いので、アイスコーヒーを飲みながら私がいちごカスタードクレープにかぶりつくのを眺めていた。
「いちごカスタードクレープ美味しい〜」
「鈴那は本当に美味しそうに食べるね」
口いっぱいに頬張る私に優しく笑い、親指で私の口の横をそっと拭った。
「クリームついてる。ゆっくり食べて」
「……ありがと」
かあっと赤くなった頬を隠すように俯いた。
恥ずかしさを誤魔化そうと話題を変える。
「もう来週だね、文化祭」
「部活のステージは順調?」
「結構ギリギリかなあ。でもすごく楽しみだよ!」
文化祭は2日間開催され、ダンス部の発表も両日ある。全体で40分ほどのステージだ。
「紫貴は見に来てくれる?」
「もちろん行くよ」
緊張するけど、いいところ見せられるように全力で頑張るつもりだ。
「ダンス部のステージを見るのは初めてだよね?」
「いや、二回目かな」
「一回目は去年の文化祭ってこと?」
「そう」
意外だった。
紫貴はあまり俗っぽいものに興味が無さそうだから。
でもダンスステージは1番と言っていいほど盛り上がるから少しくらい見ててもおかしくないかな。
その時はまだ出会ってなかったし、さすがに私のことは分からなかったよね。
去年はダンスを始めたてで今よりずっと下手だったから、もし私の事見られてたとしたら恥ずかしすぎる。
「実は私もその中にいたんだよ」
「うん、見てたよ」
「え」
見られていないことを前提におどけると、まさかの返事が帰ってきた。
…去年のあれを見られてたのか。物凄く恥ずかしい。
いや、去年だって一生懸命だったんだけどね。
それでもまだ私は去年の録画を直視出来ずにいる。
「今年は去年より上手くなってるから!」
「楽しみにしてる」
必死な私とは対照的に、紫貴は静かに笑っていて、面白がっているような声色に、ハードル上げちゃったかなとちょっぴり後悔した。
「今年も衣装は去年みたいな感じなの?」
アイスコーヒーの氷を見つめながら、紫貴がぽつりと尋ねる。
「去年みたいって?」
「結構露出してるものもあったでしょ」
ステージは曲ごとに衣装が変わり、全て自分たちで調達をしている。自分でアレンジも可能だ。
曲調に合わせ、ストリートやガーリーもあれば、セクシーもある。
全体で踊る曲はボーイッシュなものが多いから、私は毎回選択曲の場合は女性的な方を選ぶ。そして衣装も色っぽいものを用意することになる。
「そうだね。先輩には、踊り方に色気が足りないからせめて衣装でカバーしてって言われてる」
色気って難しいんだよねえ。
まだ17年しか生きてないから経験も少ないし。
でも同期にも先輩にも艶かしい雰囲気を出せる人が多いから、私がお子様なのかな。
「でも私はお腹しか出さないよ」
「ふーん」
足は自信が無いから出来るだけ出したくない。
だから露出も少ないはず。
紫貴は何を考えているか分からない声色で、小さくなった氷を見つめていた。
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