第6話

 並び始めて20分。目当ての教科書を買うことができた。


 買った教科書を紙製の手提げ袋に入れてもらう。中には英語の教科書など7冊が入っている。


 諭吉さん・・・ではなく栄一さんが1枚財布から消えていった。


「重いけど持てる?」

「大丈夫です」


 教科書の入った袋を持ち上げる。レジ担当のおば様が言うほど重くない。あえてオーバーに伝えてくれたのだろうか。


 売り場から離れ列を振り返る。たくさんの生徒が並んでいるのが見えた。


 これでも混まない授業中を狙ったのだが。まぁ買えたからいいか。


「ねぇ、君可愛いねサークル入った?」

「いえ」


 売り場を離れてすぐ男が話しかけてきた。聞く気はないので立ち止まらない。


「なら、うち入ろうよ」


 雑音が聞こえ舌打ちしかけるが寸前で止める。


「彼氏と遊ぶ時間無くなるので入りません」


 大体は彼氏がいると引いていくのでこんな感じの手を使う。


「いや、週一回くらい来れるでしょ?」


 まぁ効かない輩もいるけど。


「チッ」


 自然と舌打ちしてしまった。この男も舌打ちされると思わなかったのか動揺し立ち止まる。


 声かけた方が悪い。気にせず少し早歩きで立ち去る。


 なにか呼び止める声が聞こえるが当然立ち止まらない。


(今度から薬指に指輪付けとくか)


 そのままのスピードで教室まで歩いたら息切れした。あの男のせいだと顔を思い出し2度目の舌打ちをする。


 席に着いたらヘッドホンで英語のラジオを流す。去年から編み出した防音対策の一つ。


 イヤホンよりヘッドホンの方が遮断でき、かつ人の2倍日本語を聞いてるので英語にしている。


 学ぼうとしてないので話せるようにも聞き取れるようにもなってないけど。


 留学したら心の声も英語だろうし、人より多くの英語を聞けるのだろうか。


 それなら人より早く上達できるかもしれない。真面目に留学を考えても良いかも。


 講義はなるべく先生の近くで受ける。これはマスト。


 前よりの席は座る人が少なく、聞こえてくる心の声も少なくて済む。また、1人が好きと思われ周りが話しかけてこない。


 今のところコースでも一匹狼でいれている。大学生活なかなか良いスタートが切れていると思う。


 学校が終わると今日は直でバイト先へ。平日の夕方から夜なのでそこまで客足は多くない。


 数時間のシフトが終わると近くのファミレスへ向かう。


 一週間に一度だけの外食。日頃は食費を抑えるため自炊と学食で暮らしている。けど一人暮らしだし週に一度くらいならいいかなって。ご褒美みたいな感じだ。


 ご褒美貰うほど一週間頑張ったかは聞かないでほしい。


 夕食を食べ終えファミレスを後にする。


 夜道の中アパートまで歩く。


 明日からの土日は外出しないので、今のうちに外の空気を吸っておく。


 休日は基本家にいることが多い。わざわざ休日まで外に出て心の声を聞きたくないからだ。


 人と関わるのは必要最低限で十分。

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