メモリーレーン③

 一週間後、ミユキが萌亜と共に姫美子を訪ねて思い出交換所にやって来た。

「ダメよ。学生さんが、頻繁に、こんなところに来ちゃあ」と姫美子が言う。

「あら。こんなところだなんて、姫美子さん、ひどい」とブックが口を尖らせた。

「で、どうしたの?」と姫美子。

 ミユキが答える。「パパとママ。昔みたいに話をするようになって、ひょっとしたら離婚を回避できるかもしれません。姫美子さんのお陰です。どうもありがとうございました」

「一体、どんな思い出を交換したのですか?」とブックが聞く。

「それがね。思い出を交換しなかったの」

「交換しなかった?」

「うん。思い出はね――」と姫美子が説明する。

 思い出はまだ新しい内はフルカラーで鮮明だが、時間が経つに連れ、色がどんどん薄れ、セピア色となり、白黒となって、やがて真っ白になる。真っ白になったとしても、思い出は消えた訳ではない。何かの拍子に、ふと蘇ったりする。

「そこで、二人が相手のことを愛おしいと思った時の記憶を、その瞬間の思い出を鮮明にしてあげただけなの。当時の気持ちを思い出して欲しくてね。そして、嫌な記憶を真っ白にしてあげたの。忘れた訳ではないけど、思い出せない。過去の記憶にしてしまった訳。後は、成り行きに任せるしかなかった」

「忘れていたものを取り戻してあげたのですね」

「うん。そうとも言えるかな。二人が仲違いしてしまわないように、ミユキちゃん。あなたが見守ってあげてね」と姫美子が言うと、「はい」とミユキが頷いた。

 ミユキは何度も頭を下げながら、萌亜と店を出て行った。

 二人を見送るとヨシキが言った。「姫様。流石です。良かったですね」

「人の感情は操ることができない。今回はたまたま上手く行っただけ。調子に乗らないようにしなきゃあ」

「姫様は自分に厳し過ぎるのでは? 上手く行った時くらい、素直に喜んだらどうです?」

「そうですよ~」とブックが加勢する。

「祝杯を挙げましょう。ヨシキ・オリジナルの、とっておきのカクテルをつくります」

「へえ~何て言うカクテル?」

「メモリーレーンって、名づけました」

「あら、オシャレ。思い出の小道ね。良いわね」

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