シーズン2
メモリーレーン①
「姫美子さ~ん。お願いがあるんです~」と嬌声を上げながらブックが抱き着いて来た。
「あら、まあ、ブックちゃん、いつ見ても可愛いわね~」と姫美子。
「そういう姫美子さんこそ、いつ見てもお綺麗~」
カウンター越しに二人を見守るヨシキが苦笑いをする。それに目ざとく気がついた姫美子が「ヨっちゃん。そんなに冷たい眼でみないでよ」と指摘する。
「別に僕は・・・」とヨシキが口ごもる。
「ヨシキさん、ひどい!」とブックが非難する。
二人にかかってはヨシキも形無しだ。
「ブックちゃん、お願いって何?」姫美子がブックに尋ねる。
「また萌亜からのお願いなのです。子供の悩みなんて、本来、姫美子さんに相談する必要なんて無いと思ったんですけど、話を聞いたら、ちょっと深刻な話だったものだから、何とかならないかなあ~と思って」
「深刻な話? なあに?」
「実は――」とブックが語ったのは、萌亜の友人の両親が離婚しそうだという話だった。
「離婚? それは・・・」
当事者同士の問題だ。思い出を交換したからといって、二人の関係が元通りになる訳ではない。離れてしまった気持ちは、思い出効果では取り戻せない。
「うん。萌亜も友だちも、分かっているんだ。でも、それでも、何とかならないかって、すがるような気持ちで姫美子さんの力を借りたいって言うの」
「思い出の交換は出来ても、人の感情は操れないのよ。困ったわね」
姫美子は神ではない。思い出交換をやってはみたが、望み通りの結果が得られなかったことなんて、たくさんあった。いや、むしろ、上手く行かないことの方が多いくらいだ。人を操ることが出来ると思い上がるなと常々、自分に言い聞かせていた。
「姫様に無理を言っちゃあダメだよ」とヨシキが優しくブックに言う。
「話だけでも聞いてもらえたら。それでダメならダメと、はっきり言ってもらって構いませんから」
「そうねえ~分かった。ブックちゃんの頼みだから」と言うと、「ありがとう~姫美子さ~ん」とブックがまた姫美子に抱き着いた。
翌日、放課後、萌亜の友人という女の子が思い出交換所に呼ばれた。
萌亜と一緒に現れた女の子は「ミユキって言います。よろしくお願いします」と強張った表情で頭を下げた。
「大丈夫よ。優しいお姉さんだから」と萌亜がミユキの背中をさする。
お姉さんと呼ばれて、「あら、萌亜ちゃん。相変わらず良い子ね~」と姫美子が喜ぶ。カウンターの向こうでヨシキがくすりと笑ったものだから、「ババアで悪かったわね」と姫美子が恨みのこもった眼を向けた。
「ひど~い」とブックがヨシキを非難する。
「そ、そんなこと、一言も言っていませんよ」
「言わなくても分かるのよ」
「そんな・・・」
とんだ災難だ。
「さあ、ご両親の話を聞かせて」
「はい」とミユキは両親の話を始めた。ミユキの両親は職場結婚、母親はミユキを出産後、専業主婦となった。不仲となったのは父親の浮気が原因のようだ。よくある話だ。
「私が生まれる前は、二人で食事に行ったり、旅行に行ったりして仲が良かったようなのですが、私が生まれてからは、私中心の生活になってしまって。二人が別れないのは私がいるからでしょうが、心はもう離れてしまっているのかもしれません」とミユキが言う。
「二人の心は、二人に聞いてみないと分からないものなの。いえ、自分でも自分の心が分からなくなってしまっているのかもしれないわね。二人と話をしたいのだけど、出来るかしら?」
「やります。パパとママが離婚するなんて、絶対、嫌だから。二人を説得してでも、連れて来ます」
「頼もしい。分かった。二人と話をしてみる。あまり期待しないでね」
こうして、今度はミユキの両親と思い出交換所で会うことになった。
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