姫美子の秘密①
「おはよう~」と珍しい人が思い出交換所にやって来た。
「おはようございます。凛子さん。姫様はまだ来ていませんよ」とヨシキが丁寧に挨拶をする。
「相変わらず良い男ね」と凛子と呼ばれた女性がほほ笑む。
「あら~店長!」とブックが飛んで来て、凛子に抱き着いた。
姫美子の母親でもある。十代で姫美子を産んだとあって、まだ四十代で、若く見える。姫美子と並べば姉妹に見えないこともない。姫美子の美貌は母親譲りだと言うことが分かる。
「暫く、こちらにいらっしゃるのですか~?」
「そうねえ、こっちにはいるけど、お店にはあまり顔を出せないかも」
「そんなこと言わずに、できるだけお店に顔を出してください」とブックが甘える。
「相変わらずブックちゃんは可愛いねえ~うちの娘に爪の垢でも煎じて飲ませたいわ」と凛子が愚痴ると、「悪かったわね。可愛げがなくて」と何時も間にか店にやって来ていた姫美子が背後から言ったものだから、「うわっ!」と凛子が男のような声を上げて驚いた。
「まるで、オッサンね」
「あら~姫美子ちゃん。相変わらず口が悪いわね~」
「何で帰ってきたの?」
「こっちで仕事があるからよ」
「仕事⁉」姫美子の表情がくもる。
「暫くお宅で厄介になるけど、よろしくね」
「自分の家でしょう」
「あら、そうだったわね」
「フーテンの凛子さん」
「あら、それ良いわね。姓は冴木、名は凛子、人呼んでフーテンの凛子と発しますってか」
「ねえ。仕事が一段落したら、思い出のメンテナンスをさせてね」
「ああ・・・うん」と凛子が曖昧に頷いた。
「ダメよ。メンテナンスせずにいなくなったら」
「あなたに余計な苦労をかけたくないのよ」
「苦労なんかじゃない!」
「あなた、何時もメンテナンスの後は情緒不安定になるじゃない!」
と二人の言い争いがヒートアップしたところで、「まあ、まあ。久しぶりに会ったんですから、今日くらいは親子団らんを楽しんではどうです?」とヨシキが会話に割って入った。
「親子団らんって言われても・・・」
「何をしたらよいのか分からない」
「今日はおうちに帰って、旅の疲れを流して、二人でゆっくり食事をしたら良い。積もる話もあるでしょう。お店は僕らに任せて、さあ、帰った。帰った」
姫美子と凛子はヨシキに店を追い出されてしまった。
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