懐かしい景色②

 五日後、女性が婚約者を連れて現れた。

「あら、この間の――」

「思い出交換をやってもらいたくて、彼に来てもらいました」

「ふふ。仲良しね」

「はい」と女性が頷く。

「どんな思い出を忘れてしまいたいの?」と婚約者に聞くと、「それが・・・色々、思い出してみたのですが、嫌な思い出はいっぱいあるのですが、それでも忘れてしまいたいとなると、そんな思い出はありませんでした。恥も含めて、思い出が今の僕を形作っていますから」

 忘れてしまいたい思い出がないとは、余程、性格が良いのだろう。幸せな人生なのだ。

「良い言葉ね。それで、どうします?」

「忘れてしまいたい思い出は無いのですが、ずっと気になっていることがあるのです。どこかの町の風景なのです。鮮明に思い出せるのですが、それが何処なのか分からないのです」

 都会の喧騒とは無縁の緑に溢れた場所だ。丘の上に家があって、段々畑が眼下に広がっている。海沿いの町で、丘を下れば、もう海だ。海面にふたつ、双子のようにそっくりな島が浮かんでいる。夕焼けが辺りを真っ赤に染めていて、それはもう絵画の中にいるように美しい景色だと言う。

「子供の頃、親父の仕事の関係で、何度か転勤しました。転校を経験していますので、子供の頃に見た、昔、住んでいた場所の景色だと思うのですが、何処なのか分かりません。親にも聞いてみたのですが、そんなところに住んだことないが言うのです。その景色を彼女と共有したいのですが、ダメでしょうか?」と婚約者が尋ねた。

「大丈夫ですよ。彼女の思い出を切り取った後に、あなたの、その思い出の景色を複製して埋め込んでしまえば良いのです。彼女は嫌な記憶を忘れることができるし、あなたの思い出の景色はそのままで、お二人は同じ景色を共有することができます」

「素晴らしい」、「是非、お願いします」と二人が口々に言った。

「じゃあ、こちらへ」と姫美子が二人をメモリートレードセンターへと導くと、婚約者が「何時か彼女とその景色に行ったみたいな」と言った。

「きっと見つけることができますよ。お二人なら――」

 姫美子の言葉に、二人は「はい」と同時に頷いた。

 こうして、姫美子は二人の間で思い出交換を行った。

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