あと一歩③
十日後、何時も通り「マルキン」でたむろする姫美子のもとに神代がやって来た。
「昨日、クラブチームの試合が会ってね。田辺がうちのチームに参加してくれることになった。また、野球をやる気になったみたいだ」
「そう。それは良かった」
「姫美子ちゃんのお陰だよ。至って健康で、病院なんか縁がないと思っていたのに、何故か入院していた記憶があるんだって。その頃のことを思い出すと、健康でいられるだけでありがたい。そう思って働いていると、最近は、良いことばかり起こるって言っていた」
「へえ~なんか興味ある」
「本命の彼女と付き合えずに、その友達と付き合っていると言っていたけど、本命の彼女、男癖が悪かったらしくて、三角関係のもつれから、二股をかけられていたことを知った彼氏が会社に乗り込んで来て、大騒ぎになったらしい。その本命の彼女、会社にいられなくなって、辞めたそうだ。彼女の友人だった、田辺の彼女も縁と切ったと言っているらしい」
「修羅場ね。見てみたかった」
「何時も二番手だったのに、同期で最初に係長になるらしい」
「良かった。野球もやる気になってくれたみたいだしね」
「そうそう。あれだけ避けていたのに、田辺の方からチームに入れてくれと言って来た。それにね。姫美子ちゃん」
「うん?」
「カズ君、退院したみたいだよ。驚異的な回復だって」
「そう!」と姫美子が顔を輝かせる。
「高校生になったら、野球部に入って、甲子園を目指すんだって言っているらしい。グランドを駆けまわっている姿が見えるんだって。だから、絶対、野球部に入るんだって言っている。親父、涙を流して喜んでいた」
「良かった」
「うん」と頷いた神代は姫美子と顔を見合わせて、「本当、良かった」としみじみ言った。
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