人の感情は操れない②

 三日後、思い出交換所に現れた姫美子にヨシキが言った。

「姫様。この間の話、聞いておきましたよ」

「この間の話?」

「ほら、元カレがストーカーになった女の子の件」

「あれね。それで、どうだった?」

「元カレの過去について、聞いておきました」

 ヨシキが説明を始める。

 元カレはサッカー選手になることが子供の頃からの夢だった。だが、中学の時、部活で足を骨折したことから、サッカー選手になる夢を断念した。

「もともと、才能があった訳では無かったようです」

「他に、彼女に熱中する前に、夢中になっていたことは無いの?」

「週末、バイクに乗って走り回っていました」

「それは迷惑な話ね。もっと夢のあるものは?」

「それが、ありました」

「あったのね」

「一時期、音楽に夢中になってギターを弾いていたそうです」

「ギター・・・」

「探しておきましたよ」

「探したって、何を?」

「ギターに関する思い出を捨ててしまいたいやつです。俺のダチに――」

「あら、ダチだなんて。やんちゃなヨっちゃんも悪くないわね」

「茶化さないでください。ダチに音楽をやっているやつがいて、メジャーになってやるって頑張って来たんですけどね。この前、会ったら、彼女に子供が出来たんだ。俺、もう、音楽、止めて地道に働く。俺たち、もういい年だろう。夢を追いかけるのも、ぼちぼち潮時だって言うんです。ギター弾いていた時の思い出、何でも持って行ってくれと。もう、忘れてしまいたいそうです」

「そう。ヨっちゃんたちがいい年なら、私なんて、ババアね」

「そこですか⁉ 引っかかるのは」

「やってみる価値はありそうね。問題は――」

「問題は?」

「元カレをどうやって引っ張ってくるかね」

「それは任せておいてください」

「手荒な真似はダメよ」

「そんな、やんちゃはしません」

 ヨシキは白い歯を見せて笑った。

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