トンネルを抜けると。
ハマハマ
春
年末から一月二月と寒くて長いトンネルを、僕はなんとか乗り越えた。
僕なりに全力で、めちゃくちゃ頑張って走った。
たまには歩いたりもしたけど、僕なりに、全力で。
神様は乗り越えられない試練を与えない、どこかで聞いたそんな言葉を心の拠り所にして、僕なりに。
仲の良かった親友とも、少し、疎遠になった。
明らかに僕より、頑張ってなかったから。
でもそんなアイツはニコニコ笑って僕より早くトンネルを抜けた。
私立専願で楽々とトンネルを抜けた。
でもしょうがない。
僕は公立を目指してた。
僕には少し背伸びが必要な、あの娘が受ける公立高校を、目指してたから。
動機が不純だと笑う奴は笑えば良い。
なんと言われようと、僕の背伸びを支えてくれたのはそんな不純な動機だ。
特に苦手だった英語と社会は必死に頑張った。
そこそこ得意な数学と理科もそれなりに頑張った。
抜群に得意だった国語はなんにもしなかったけど。
きっと、あとほんのちょっとだったと思う。
古文か漢文を少しでもやってれば、手が、届いたんじゃないか。
そうなんだ。国語が僕の足を引っ張ったんだ。
僕は国語が得意なんじゃなくて、現国が得意だったんだよ。自分で知ってはいたんだけど、なんとなくイケる気がしてたんだ。
そんなこんなで敢えなく私立高校。
憧れのあの娘とは離れ離れさ。
そうさ、それから彼女とは全く接点がない。
そりゃそうさ、中学時代に話した事もない、勝手に憧れてただけなんだから。
僕は失意のままに私立高校へ。
気分はどん底。
なぜって、そりゃ。
疎遠になった親友と同じ私立なんだから。
ひと月ほど無駄に受験勉強にやっきになって、結局はアイツと同じ学校。
ただし僕は併願で受かってる。僕の方が上だ。専願の方が随分と受かりやすいんだから。
公立に落っこちた僕は、春休みに誰とも会わなかった。
なんとなく、笑われるんじゃないか、って。なんか嫌だったんだ。
中学生でも高校生でもない春休みを、鬱々と過ごして、入学式を済ませて。
はぁ、やだな。なんて考えた高校生活の初日。
「おはよ! またお隣だね!」
僕にそう、声を掛ける女の子がいたんだ。
「なんだ覚えてないの? 入試の日も席お隣だったんだよー!」
トンネルを抜けると、春、だったんだ。
その時の女の子が、
だからさ、落ち込まなくて良いんだ。
公立ダメで私立になったからってさ、どっちが良いかなんて今はまだ分かんないよ。
僕は――父さんは公立落っこちて最高にハッピーだな、って思ってるくらいなんだから。
それは違うぞ、母さんに出逢えたからだけじゃないってば。ホントだってば。
え? 親友?
今も普通に仲良いよ。
年2回くらい呑みにも行くしね。
ホント未来の事は分かんないよね。
だから君も、新しい春、楽しみなよ。
ああ良かったな、ってさ、大人になった時に思えるぐらいにね。
トンネルを抜けると。 ハマハマ @hamahamanji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます