日本がホロコーストを阻止する!

@schueins

すべてのユダヤ人を脱出させろ!


「お~い!あんまり聞きたくないけれど、おまえ誰だ?」


「良く来たね、青水。ぼくは信参、ノブさんって呼んでね。」


「呼び捨てされて、さん付けかよ!」


「いや、呼び捨てでも信参だから。」


「わかったわかった、ことごとく腹立たしい奴だ。」


「今回は....」信参の頭の中でドラムロールが鳴り響く。


「みなまで言うな、どうせ1940年辺りだろ?」


「ご明察。世界大戦を...」


「止められねえよ。前回でその仕組みわかっただろ?」青水は帰りたくなってきた。


「そうだった。では少し巻き戻そうかな。1938年にしよう。」信参はフッ軽だ。


「水晶の夜か?」青水はしばし考えて答えを言った。


「そう、あれを阻止できないかな?」とすべからく軽い信参。


「暴動だから軍隊で鎮圧とかじゃないと阻止はできないだろ。しかも軍隊や警察は暴徒の側に付いている。」青水のリアリズム。


「暴動の発端は何だっけ?」信参は少し脳の重量も軽い。


「パリでドイツ大使館の書記官がユダヤ系ポーランド人に暗殺されたことだ。」青水は大学受験で世界史を選択していた。。


「ならそれを阻止するだけで何とかなるんでね?」信参はだんだん飽きてきた。


「なわけあるかよ。ナチスにとってきっかけは何でも良い。」青水は少しイライラしてきた。


「どこかで誰かが何かやらかすと?」信参の関心が少し戻った。


「そういうことだ。ユダヤ人をできるだけ多くドイツから逃がすことが大事。」と青水。


「じゃあそうしよう。」信参はともかくあくまでも軽い。


「おまえね、簡単に言うなよ。ユダヤ人の外国への移住に対し、ナチス政府は多額の罰金を課し、不動産を含む資産を没収するんだよ。外国に移住することは、生活の見通しが立たなくなるということだ。」青水はリアリストだ。


「でも死ぬよりマシじゃね?」信参は人の痛みがわからない。


「受け入れてくれる国もなかったんだよ。多くの国はユダヤ人難民の大量流入を懸念して入国ビザの発給を制限していたんだ。」青水のイライラが限界に近づいていた。


「ならば金竜疾風の案件というより、日本国が頑張る案件だね!」信参は久しぶりの活躍の可能性を感じて興奮している。


「そういうことだ。日本とその友好国で受け入れてあげれば良い。」青水はようやく具体案の話に進めるのでほっとした。


「1935年のニュルンベルク法でユダヤ人は市民権を奪われちゃったからなあ。今回の作戦、金竜疾風より日本国大使館が頑張らないと。」信参はようやく本気になった。


「とりあえずパリの書記官暗殺事件は阻止させろ。少しは時間稼ぎになる。」



 1938年、パリのドイツ大使館近くの公園で、ドイツ大使館三等書記官のエルンスト・フォム・ラートは、黒パンとチーズとピクルスのランチを楽しもうとしていた。…その静かな公園で、フォム・ラートはランチを広げながら心の中で新しい一日の計画を練っていた。パリの柔らかな秋の日差しが彼の肩に降り注ぎ、葉が風に揺れる音が心地よく響いていた。


 しかし、その平穏は突然破られる。公園の向こう側から拳銃を握りしめた若い男が重い表情で一歩一歩近づいて来る。目に決意と悲しみを浮かべたポーランド系ユダヤ人のヘルシェル・グリュンシュパンが姿を現し、何も気づかないフォム・ラートがチーズをナイフで切ろうとしているその瞬間、公園の静けさを切り裂く銃声が響き渡った。鋼の蜘蛛糸に絡め取られたグリュンシュパンの銃が火を噴いたが、蜘蛛糸に遮られ、跳弾が足の甲を貫いた。煙玉が炸裂し、フォム・ラートは背後から忍び装束の少女に組み付かれ、口に気絶薬を流し込まれた。



「犯人確保!」青風が蜘蛛糸ごとグリュンシュパンを引きずる。


「犠牲者確保!」桃風がフォム・ラートを芝生に横たえる。


「書記官殿はこの場に放置。昼寝して夢でも見たということにしてもらう。犯人は、そうだな、ポーランド大使館前にでも転がしておこう。」リーダー赤風が仕切った。



「なあ、青水、急がないとまずいのでは?」


「その通り。まずはユダヤ人の出国の援助だ。西カナダ、西アメリカ、メキシコ、甘雪に協力を仰げ。全力で受け入れてもらおう。」


「全部で何人だっけ?」信参は基本的な数値も把握していない。


「27万人だ。5万人ずつ移民として受け入れてもらう。どこも景気が良くて人手不足だから大丈夫だろう。異文化に染まるのが嫌な人々には、ベーリングとポリネシアの無人島を開拓してもらおう。すべて日本の管理下にある。」青水はキャラが変わったようにテキパキと指示を出す。


「太平洋ディアスポラだ。」信参は新しく覚えた単語が使えてご満悦だ。




 ベルリンの日本大使館一等書記官徳川家信は、オルテンブルク・シュトラーセのシナゴーグを訪れた。ラビ・エリヤフ・ゴットリープが出迎えた。



「突然の来訪、失礼いたします。しかし事は急を要するのです。」徳川は静かに切り出した。


「われわれユダヤ教徒全員に関わることでしょうか?」ラビは事情を察した。


「はい、近々ユダヤ人を標的にしたナチスによる組織的な暴動が起こるでしょう。かなりの数の死傷者が出ると予測されます。」


「そ、そんな....」予想できることだけに現実を突きつけられて愕然とするラビ。


「われわれ日本政府はそれを傍観することはできません。事態が悪化する前に、できるだけ多くのユダヤ人を国外に脱出させる必要があります。今ならまだぎりぎり合法的に国境を越えることができます。ドイツ国内のシナゴーグの連絡網を使ってユダヤ人全員に国外脱出の準備をするよう呼びかけてください。どうせ財産は持ち出せないでしょうから放棄するようにと。生命がすべてに優先するのです。脱出先での生活は保障します.日本、西アメリカ、メキシコ、西カナダ、甘雪が全力で支えます。」徳川は先祖のオーラを全身にまとって説得した。


「組織的に大規模な脱出を図ったらナチスが黙って見ているでしょうか?」


「ぎりぎりまで合法的に脱出してください。それを不可能にする法案が通ったら、こちらも別の手を講じます。安心してください。われわれはあなたたちを決して見捨てません。」



 ベルリンのナチス党本部。



「最近、ユダヤ人の出国がすごい勢いで増えてます。」内務省弁務官が報告した。


「出国にはかなりの費用がかかるはずだが。」親衛隊地区リーダーが首をかしげる。


「ユダヤ人は不利な条件でも動産や不動産を手放しています。」


「ならば我が国は大いに潤うな。」親衛隊リーダーは不敵に微笑んだ。


「はい、税収はうなぎ登りです。」弁務官も愛想笑いで返した。


「これから戦費で金はいくらあっても足りないんだ。良い傾向だ。」


「必ずしもそうも言えん。」親衛隊保安部の将校が入室して話に加わる。


「と言うと?」親衛隊リーダーは話の腰を折られて少し不満そうに尋ねた。


「奴らを外国に逃がせば、いずれ力を盛り返して反撃するかもしれない。」


「ならばどうしろと?」「どうするのです?」リーダーと弁務官が同時に言った。


最終解決エントレーズングだな。全員死んでもらう。死人に口なし、手足なし。」保安部将校は不遜な笑みで答えた。


「ジェノサイドか?そんなことをすれば...」リーダーは鼻白んだ。


「すればどうなる?」保安部将校は挑むように睨んだ。


「ドイツはただでは済まない。」リーダーは毅然と睨み返した。


「ドイツは戦争に勝利する。それが結果だ。」保安部将校は鼻で笑った。


「勝利したとしても戦後世界というものがある。あなたはドイツが全世界を、全地球を支配するとでも言いたいのか?戦後世界においてジェノサイドを犯したドイツの威厳が保たれると思うのか?」リーダーの理性は保安部将校の狂気を許せない。


「貴様、フォルクスフェアレーター裏切り者か?」保安部将校は怒りで顔を紅潮させる。


「ドイッチェス・フォルクのために私は発言し行動する。我が父国ファーターラントが世界中から糾弾される未来を私は見たくない。」リーダーは毅然と断言し、弁務官は心の中で拍手した。




「なあ、信参よ、ユダヤ人の脱出はどのくらい進んでいる?」青虫はビールを飲んでいる。


「15万人ぐらいかな。脱出費用が足りない者にはシナゴーグを通じて日本政府が援助してるし。」信参はハーゲンダッツの固い表面をほじっている。


「ナチスに動きはないのか?」青水は2本目を開けた。


「あるかもな。あったらどうしよう?」やっと表面が溶けたのでざっくり掬う。


「現実的なのはポーランド経由だな。ポーランドに入国できれば、あとは空路で協力国へ脱出できる。1938年ならまだドイツ空軍に撃墜されたりはしないだろ。」ビールが止まらない。


「17万人だろ?国境突破は難しいかな。」ハーゲンダッツが空になった。


「アハターヴァッサー沿岸の目立たない場所から偽装観光船を出して水路でポーランドへ運ぶ。出発地点は10カ所ぐらい確保して転々と変える。これで2万人はいけるな。次に日本国招待者の旅券を10000人に発行し、堂々と空路で脱出。まだまだ足りない。招待者旅券は、さらに西カナダ、西アメリカ、メキシコ、甘雪からもそれぞれ10000人ずつ。これで7万。あと10万か。」酒の勢いで青水は冴えてきた。ん?まさかアル中?


「トラックコンボイで強行突破は?」信参は脳天気だ。


「うむ、最終的にはそれもありだが、運べるのはたいした数じゃないぞ。」


「ですよねー!」難しい数学の問題を途中で投げ出すタイプの信参。


「新兵器を出すか。」酒の勢いは恐ろしい。



 ウィーン、ヨエル縫製工場。



「ねえパパ、どうして工場を売らなければならないの?」ヘルムートは父カールに尋ねた。


「ナチスがそういう法律を作ったんだ。」


「ぼくたちどうなるの?」


「アメリカに行こう。旅費ぐらいはまかなえる。」


「西?東?」


「ヘルムートはどっちが良い?」


「東かな。ニューヨークに行きたい。」


「はっはっは、じゃあそうしよう。ニューヨークで音楽を学べば良いよ。」



 アハターヴァッサー沿岸の小さな町。バスやトラックでたくさんのユダヤ人が集まって観光船を待っている。大きな荷物を持っている者は誰もいない。あくまでも観光客という風体だ。アハターヴァッサーは、なぜかいま大人気の観光スポットになっていた。



 アムステルダム、プリンセン運河沿いのビル。



「同胞の脱出は順調なの?」赤いベレー帽を被った女が尋ねた


「残りは10万人を切りました」秘密組織の隊員が答える。


「オランダとの国境はどうなってる?」ベレー帽の女はどうやらリーダーだ。


「厳重に封鎖ですね。」隊員は7名いた。


「特にネイメーゲンのような要衝は鉄壁です。」


「突破が可能なのは北部のエムス川でしょう。闇に紛れて渡河。」


「あと東フリージア諸島を西へ転々と。」


「なるほど、ではドイツ支部に連絡して、この2つのルートを使おう。」


「はい、でもオランダももう持ちそうもありませんね。」


「オランダからの脱出は日本が支援してくれる。」


「そうですか。ならばここの裏に住むフランク家にもその旨を伝えましょう。」


「そうだな。あの女の子、アンネと言ったか、あの子も逃がしてやらなくちゃな。」



 2週間後、北部脱出計画を成功させるため、陽動作戦としてアムステルダムのナチス本部への時限爆弾攻撃が秘密組織によって実行された。実行犯は、赤いベレー帽がトレードマークの隊長レナ・ローゼンフェルト以下7名。手際は鮮やかで、1人の逮捕者も出さずにナチス本部を無力化し、詰めていたナチス将兵10名が爆死した。



 翌日、バルリンの新聞「ノイエス・ドイチュラント」の見出しには、「卑劣極まれる犯行!アムステルダムでユダヤ人テロリストの凶行。時限爆弾でナチス本部を爆破。同胞10人が非業の死!」という大見出しが載った。職場で、カフェで、大学で、「卑劣なユダヤ人」について侃々諤々の議論が交わされ、「復讐」という言葉が街中の会話に溢れ始めた。新聞もラジオも連日、事件の詳細や背景についての考察を報じて人々の感情を煽り、ユダヤ人に対する敵愾心を増大させて行った。政権党である国民社会党はこの状況を利用し、ユダヤ人へのさらなる弾圧を正当化する法案を次々に可決していった。



「そろそろ大詰めかな、ユダヤ人脱出計画?」青水は二日酔い気味だ。


「残り3万人ぐらいですかね。」信参はおなかが緩い。


「一気に行くか!」


「と言うと?」


「まあ見てろ。金竜疾風が実力ゲヴァルトを有する組織であることを見せつけてやる!」青水は迎え酒をあおった。



 1938年9月、ドイツ北部のノヴェ・ヴァルプノ湖の沿岸に3万人のユダヤ人が集まった。そして、島に浮かぶリーター・ヴェルダー島に空から謎の鉄の船が20機着陸した。所属を示すマークはない。12時を合図に大量のトラックで組織されたコンボイがドイツ国境を越えてポーランドへ侵入する。国境警備隊はもちろん対応して機銃掃射でこれを阻止しようとした。しかし、リーター・ヴェルダー島から発進した飛行部隊が空からの機銃掃射でこれを難なく撃破。国境はがら空きになった。コンボイの大半がポーランドに逃れたころ、ようやく連絡を受けたドイツの戦車隊が西と南から迫ってきた。飛行部隊は二手に分かれて、戦車隊に空爆を実施。対空戦の装備を持たない戦車隊は簡単に蹂躙され、すべて大破した。その間にコンボイはすべてポーランドへ脱出することができた。



「はっはっは、見たか、信参よ!」青水はかなりできあがっている。


「な、なんじゃ、あれは?」トイレから戻った信参は驚きを隠せない。


「ふふふ、金竜疾風と名古屋の工廠が共同開発したヘリコプターだ。」


「....」信参は「チート」という言葉を飲み込んだ。

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