『僕は凡人を演じる―でもクールビューティーが隣にいるせいで無理! ~魔力完全封印の学園ライフ~』
あまとり
第1話 過去は隠して、隣の席の銀髪美少女から逃げたい
この世界には、魔法がある。
空を割り、雷を落とし、魂すら燃やす理――
人はそれを“奇跡”と呼び、同時に“呪い”とも恐れた。
――そして、かつて俺はその“呪い”と呼ばれた側の人間だった。
⸻
「アイン・クラウス。14歳。趣味なし、特技なし、目立たず生きたいだけの一般人――ということにしている」
鏡に向かって自己紹介の練習をする俺の顔は、完璧に凡人そのものだった。
整いすぎず、冴えすぎず、存在感ゼロ。いいぞ、理想形だ。
今日から、エルフェリア魔法学園。
魔術師養成の名門に入学するけど、俺の目標はただ一つ。
「三年間、できるだけ静かに過ごすこと」
目立たず、戦わず、誰の記憶にも残らず卒業する。
それが俺の“生き残るための戦術”だった。
――なぜなら俺は、過去に“あの事件”を引き起こしてしまったから。
(……思い出すな。もう、終わったことだ)
それでも、ふとした瞬間に脳裏に浮かぶ。
焦げついた大地。沈黙する空。倒れた人々と、俺の足元に広がっていた“紋章”。
“暴走事件”。
そう呼ばれたあの夜、俺は自分の魔力で“全部”を壊してしまった。
以来、俺は「力を使わない」と決めた。
いや――**「使えないようにした」**と言った方が正しい。
魔力量も制限魔術でロックしてある。
身体強化も、攻撃魔法も、全部“自動封印”が働くようにしてある。
だから、今の俺は“凡人”だ。完全に。
⸻
――と思っていたのに。
「クラウス・アイン君、席は窓際の前から2番目」
その“隣の席”にいたのが、銀髪で、色素の薄い瞳をした、ひときわ目立つ少女だった。
姿勢が良く、動きが静かで、他人と話そうとしない。
だけど、ただの“人見知り”とは違う。あれは誰も信じていない目だ。
「……よろしく」
「ア、アイン・クラウスです。よ、よろしく……」
「クラウス……。へぇ」
一言だけ呟いたあと、彼女――リリス・アルヴェーンは、不思議そうな目でこちらを見つめてきた。
「あなた、魔力の波が変わってるわね」
「っ……」
言葉が、止まった。
「まるで、“意図的に抑えてる”ような感じ」
「……気のせいじゃないですか?」
精一杯、平静を装って言う。
けれどリリスは、なぜかそれ以上は詮索せず、窓の外に視線を戻した。
「そうね。気のせいかも」
その“間”が、明らかに気のせいではなかった。
久々に、心臓が高鳴るのを感じた。
⸻
入学式の帰り道。誰もいない廊下を歩いていると、不意に小さな声が背後から届いた。
「ねえ、アイン君」
「え?」
「もしも、君が“何か”を隠してるとして……それが誰かを守るためだったら」
リリスは、まっすぐに俺を見ていた。
「――その強さを、“間違い”って思わないで」
そう言って微笑む彼女の瞳は、どこか俺の“過去”を赦すように見えた。
(……なに、それ。俺、何も言ってないのに)
そして、俺はこの瞬間、初めて思った。
この学園生活――たぶん、静かになんて終わらない。
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