第3話 白銀の楔にて

ギルド応接室の扉が開かれる。

田所浩二の視線の先にいたのは、年若くも清らかな雰囲気を纏う聖職者の少女だった。


「初めまして。あなたが……田所さんですね? 私はリリエル・マーレス。パーティー《白銀の楔》のリーダーです」


「よろしく頼む。……田所浩二、聖騎士として登録されたばかりだ」


握手を交わしたその手は小さく、しかし芯の通った力を宿していた。


「うちは、信頼と仲間意識を大事にしてるんです。“裏切らない、見捨てない”。それが、白銀の楔の誓いですから」


「……誓いか」


かつて、裏切られ、嘲笑され、孤独の中で死んだ男には、あまりにもまぶしい言葉だった。


そんな空気を吹き飛ばすように、後方から響く野太い声。


「おっ、聖騎士くんか! 待ってたで! 自分、<<野蛮人>>(バーバリアン)のガロスって言います~! よろしくな!」


筋骨隆々、二枚目というには惜しいが、憎めない笑顔の戦士が手を差し出してくる。


「……田所だ。よろしく」


「ノンケか?」


「……は?」


不穏な空気が流れた。


「ちょっと! 初対面でそういうのやめてよガロス! 田所さん困ってるじゃない!」


「いやぁ、なんか、雰囲気で……すまんな!」


そう謝るガロスの後ろから、今度は少女――かと思えば、どこか年齢不詳の魔導師がふらりと現れた。


「お前……ホモの顔してるよな?」


「またかよ」


呆れたように田所が目を伏せる。リリエルが笑顔で手を叩く。


「えへへ……この子はジャネット。見た目は可愛いけど、頭ん中は終わってるから気にしないでね!」


「紹介の仕方雑すぎないかそれ……」


「ま、でも頼りにはなるんすよ。しっかり見とけよ〜このフォロースキル!」


ジャネットが手を掲げると、天井から小さな光がふわりと降り、田所の身体がじんわりと温まった。


「……これは、回復魔法か」


「うん、“気持ちよかった”?」


「……その言い回し、やめろ」


ギルド受付嬢が扉越しにひょっこり顔を覗かせた。


「パーティー入会の手続き、済ませておきますね。田所さん、これで《白銀の楔》の正式な一員です!」


「……よろしく頼む、皆」


「「「いぇーい!」」」


何かがズレている。だけど、それでも。


(ここでなら……俺は、やり直せるかもしれない)


田所浩二、24歳(前世)。

異世界で、“本当の仲間”と出会うための冒険が始まる。

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