屋上
長万部 三郎太
何もわかってない
歴史ある大型商業ビルの屋上で、フェンスの外側に立つ女。
彼女は幼いころから慣れ親しんだ、このビルで人生を終えようとしていたのだ。
「誰もワタシをわかってくれない……」
異変に気付いた野次馬が集まると、女は半身を乗り出してこう威嚇した。
「それ以上、近寄らないで!」
片手でフェンスを握り、かろうじて体勢を保っているが油断はできない。
見かねた1人の男が野次馬をかき分けて前へと進んだ。
「来ないでって言っているじゃない! 落ちたらアンタのせいだからね!」
興奮する女に対し、男は優しいトーンで諭す。
「世の中に絶望したのか。実は俺も先月職を失ったばかりだ」
「ワタシはまだ大学生よ!」
「そう、俺も学生時代は成績も悪くていつも落ちこぼれだった」
「有名私立の首席です!」
「あの頃、付き合っている女の子もいなくてさ。寂しい学校生活だったよ」
「ちょっと前に彼氏もいたし!」
「それどころか学校に友人と呼べる者もいなかった。青春ってなんだろうね」
「ボッチじゃないわよ!」
「そのうえウチは貧乏でさ。いつもクラスメイトに揶揄われていたんだ」
「親はお金持ちなんだから!」
「……だから君の気持はわかるんだ」
「何もわかってないじゃない!! 今までの話に共通するところあった!?」
噛み合わない会話に激怒した女は、フェンスを乗り越えて男に掴みかかったのだ。
「これじゃ俺が君を助けたみたいじゃないか」
「……!」
男は女をそっと抱きかかえると、もう一度フェンスの外側に立たせた。
(すこし・ふしぎシリーズ『屋上』 おわり)
屋上 長万部 三郎太 @Myslee_Noface
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