旅道中の一幕 02

「あなたたち何を騒いでいるの?」




 よく響き渡る女性の声とともにギルドの奥の方から山吹色のウェーブがかった長い髪に青と赤のオッドアイ、整った顔立ちに他のギルド職員と同じ制服をきている女性が現れた。よく見ると他の職員と違い金色の小さな鎖と正八角形の図形が描かれたバッジを身に着けていた。 『ギルドマスター』 冒険者ギルドには必ずギルドマスターと呼ばれるそのギルドを束ねている人がいる。そしてその人物は目の前の女性のように金色のバッジと鎖を身に着けているのだ。


 そして往々にしてギルドマスターはあまたの冒険者たちに尊敬されている存在であり、同時に畏怖される存在でもある。特に荒くれ者が多い冒険者ギルドの場合は特にその傾向が強い。なにせ冒険者ギルドのギルドマスターは現役を退いた元冒険者がなることが多い。しかも現役時代数々の功績を残した猛者がだ。


 この冒険者ギルドのギルドマスターも例にもれず現役時代は超一流の冒険者であった。普段はギルドの奥に引っ込んでおりこうして表に出てくることはない彼女が現れたことにギルド内が騒然となった。




「お前らいつまで呆けてるんだ!!さっさと散れ!」


 


 大きな声で怒鳴られた冒険者たちはすくみ上ってそそくさと退散していき、ギルドマスターはラキを見定めるようにみた。




「お前さんここに来るのはじめてかい?一体なにがあったんだい? ってそこで呆けてるアホ見れば大体察しはつくけどね。どうせお前さんに絡んできたんだろう?」




「あ、まーそですね。私は全然一向に構わなかったのですが」




「こっちが構うんだよ。うちは血の気の多い荒くれ者ばかりだからどつきあうのは目こぼししてるけど、得物なしでやることってなってる。それをやっちまうと殺す殺さないになっちまうからね。手前勝手なのはわかっているが今回の一件、この冒険者の活動停止ってことで手打ちにしてほしいんだが了承してくれないだろうか?」




「ええ!?私は全然大丈夫ですよ?処分下さなくても不平不満なんかありません!」




「だがそうすると剣で斬りかかってなにもお咎めなしという前例が出来ちまう。そうなると見境なく剣やら斧やら持ちだしてギルド内は血まみれになる。すまないがこれは譲るわけにはいかないんだ」




「そうですか。わかりました」




「そういってもらえて助かる。 ああ、そういえば自己紹介がまだだったな。私はイリス。ここのギルドマスターを務めているものだ」




「では私のことはラキと呼んでください。 ギルドマスターさん。」




「!もしやお前さん『黄金のラキ』かい?」




「およ?私のこと知ってるんですか?」




「そりゃ知ってるさ。 『黄金のラキ』。凄まじい量の飯と酒を食べ尽くし、一度依頼にでるとその黄金の大槌であらゆる魔物を狩り、全身を返り血で染め魔物を引きずりながら現れる。喧嘩を売ったものはことごとく殴り殺され血溜まりに沈め、斬っても叩いても燃やしても死なない上に笑いながら戦ってるイカれたバケモノだってね。それにしてもこんな可愛らしい女のことはね。てっきりもっと筋骨隆々の男顔負けの女傑かと思ったんだが」




「誰ですかそれ?」




「いやお前さんのことだよ」




「私そんな怪物じゃないですよ!?大体私は人を殴り殺したりしませんし魔物引きずって現れたりしませんよ!どこの狂戦士ですかそれ!」




「いや、お前さん以外誰がいるんだよ」




 ボケてんのか?と半眼で言ってくるイリスにラキは不満げに言い返そうとしたがこれ以上問答しても意味がないためためいきをついて抗議をやめた。




「そんでお前さんはこれからどうするんだ?もう時間が時間だからなどこか宿にとまるんだろうがもう決めたのかい?」




「いえ、まだですけれど」




「それならうちのギルドの宿泊施設を使うといい。今回の騒動の詫びに宿泊代をもつよ」




「ほんとですか!?やったー!じゃあ二人分でお願いします!」




「ん? もう一人いるのか。わかった。 じゃあ二人分手配しておくよ」




「ありがとうございます!」


 


 外に出たラキはキャビンでパイプをふかしているタギツを木製の車椅子に乗せるとイリスが用意してくれた部屋に入ってった。部屋の中は簡素な造りながら清潔に保たれており、そこらの宿屋よりも質がよかった。木製ながらしっかりとした作りのテーブルとイスがあり、さらにはベッドがあった。 ギルドの宿屋となると大抵貧乏冒険者のために安宿となっているためどうしても宿としての質が下がりがちだが、ここのギルドはとても質が良かった。後で聞いた話だがなんでもこのギルドは魔物を多く討伐する冒険者たちが多数所属しているギルドという特性上この街を魔物から守っているという性質がある


 さらには魔物だけでなく人間による侵略という点でも防衛のための戦力として冒険者ギルドの存在は欠かすことができないという。そのためこの冒険者ギルドには多くの依頼と多額の依頼料が集まるそうだ。結果的にいい設備が整ったギルドが出来上がったとのこと。


 その後、部屋に荷物を置いてきた二人は1階の受付嬢がいたカウンターの横にある食堂に向かった。タギツの車椅子を押すラキを冒険者たちは遠巻きに話しかけたそうにしていたが先ほどの光景とギルドマスターににらまれたことから時折こちらをちらちらと見るだけで話しかけてこない。




「・・・・・・なんだか視線を感じるのだけれどラキ。君なにしたの?」




「う~ん特になにもしてないんだけどなぁ。 ただ私と遊びたそうにしてた冒険者さんと遊ぼうとしただけなのに」




 ラキは不本意だとでも言いたげに愚痴をこぼしながら食事を注文した。




「またいつもの暴力耐久タイムアタックでもしてたんだねわかったわ」




「違うよ!そんなことしたって面白くないじゃない! 私は純粋に冒険者同士の親交を深めようと思っただけ!別に暴力なんて振るわれてないよ~」




「じゃあなんてあんなに周りの人たち怯えているのさ。完全にバケモノを見る目になってるんだけど」




「う~んなんでなのでしょうか。私意外と好かれるタイプの人間だと自負してたんですけどモグモグ」




 皿に盛られた大量の料理を凄まじい勢いで食べていくその様を見ながらタギツは手に持ったパイプをふかしつつ思った。ラキは確かに天真爛漫元気っこでとても人ありがいいし、誰かが困っていたら首突っ込んででも助ける娘なので大体は好かれるが全員ではない。それこそ嫉妬や恐怖などの視線を向けるものも少なくはなない。大方今回もラキの常識から外れた圧倒的な頑強さに周りの冒険者がビビッてトラブルになったんだろうけれど………。




「というよりもラキ。いつもながらそんなに食べて大丈夫なの? それとその隣にある樽はなに?」




「だいじょうぶれふよ。あほこれはわいんれふモグモグ…」




「また樽でワイン飲むつもりなんだね。ほんと暴飲食の権化だね」




「えへへ、それほどでも~」




「褒めてない」




「そんなことよりもターちゃんも食べましょうよ。この羊肉のワイン蒸しとか絶品ですよ!この街の冒険者ギルドはご飯が絶品と聞いてからここに来るのがとても楽しみでしたけど、噂に違わぬおいしさですよ。こちらの貝のバターソテーなんかも程よく塩味が効いててとてもいいです」




 おいしそうに食べるラキをみてさすがに少し空腹になったタギツは食堂のカウンターに向かって木札を見た。ラキが片っ端から注文していたが全ては注文しておらずまだ残ってるメニューもあった。はてさてどの料理にしようかと考えていると




「こんばんわ冒険者さん……であってるわよね? さっき物凄い量を注文していった娘のお連れさんでしょう?」




 話しかけてきたのは料理を作ってるらしい人族の女性だった。他にも厨房の奥の方でせわしなく料理を作ってる女性たちがいたがその中でも最年長らしいその女性は仕事をひと段落させたのかいい汗をかきながら快活な声で言った。




「はい。そうです」




「ほんとあの娘よく食べるわよね。この食堂には毎日たくさんの人たちが集まってる来るからそれはそれは大量に料理を作ってるのだけれど、今さっきの注文で一気に材料が無くなったわ」




「あ~すみません。ご迷惑おかけしてしまい」




「いいのよ!こんなにもたくさんの料理を食べてもらえるのは料理人冥利に尽きるってもんさ。それにここ最近は冒険者たちも少しピリついてて正直空気が重かったのよ。そこにあの娘がやってきてあんなにもおいしそうに料理食べてくれてるんだもの感謝してるんだよ」




「そうでしたか」




 向こうの方で既に8割も食べきっていたラキを見ながらタギツは呟くと女性に火酒とそれに合うツマミを注文した。料理と酒を手にして戻ったタギツはこの後の予定を話しはじめた。




向こうの方をみると既に全体の8割も食べきっていた。タギツはラキの目の前に広がる残り少ない料理を垣間見ながら、心の中でため息をつきながら女性に注文した。




「すみません、お願いですが、火酒とそれに合うツマミを注文していただけますか?」




しばらくして、女性は注文した料理と酒をタギツのもとに持ってきた。感謝の意を込めて頭を下げ、火酒とツマミをもってラキの座る席に戻り


「さて、この後の予定について話しましょうか」とタギツは言いながら、火酒をお猪口に注いだ。




「この街の周辺はどうやら魔物が多く生息しているみたいだけどどうする?討伐任務にする?それとも街の中でできる依頼にする?今のところお金には少し余裕がありますからどちらでもいいのだけれど」




「ん―特にお金に困っていないから中の依頼にしようかな~。明日にでも仕事が何かないか探してみよっか!あ、、でも魔物討伐とか魔物討伐とか魔物討伐とかも楽しそう・・・・」




「欲望が駄々洩れになってるぞ?」




 やれやれといった表情でツマミに出されたイカゲソの干物を噛みしめていると




 バン——ッ!!




 勢いよくギルドの扉が開かれて冒険者らしき一行が慌てた様子でなだれ込んできた。


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