オカアサン
プラウダ・クレムニク
オカアサン 全
オカアサン
一面の炎。街が燃えていた。
幼子を抱えた若い女にも炎が迫る。そして……。
場面は変わり、平和な街。
ある女が「オカアサン」と呼んでるロボットがいた。
オカアサンは型が古く、肌色の被覆も大部分が剥げてしまっている。動作もぎこちないし、最近では言うことさえおかしい。
女はオカアサンを修理してくる人を探している。
「修理は大変だから買い換えたほうがいいよ」
女とつきあってる男が言った。
「あなたもお母さんを買い替えたりしてる?」
女が言い返す。
「してないけど、これはロボットで、お母さんじゃないよ」
男が言う。
「オカアサンになんでこと言うの! 私、オカアサンを助ける、絶対助けるんだから!」
女は言った。
オカアサンのことで2人の意見が合ったことはない。
女はひとりで飛び出し、老人が経営するロボット修理店を見つけ出した。
「オカアサンを治して!」
女は言った。
「いいが、少し高くつくよ。1クレジットだ」
老人は単眼拡大鏡を操作しながら言った。
「いいわ。それなら出せる」
「初期化するが、いいかい」
「それはダメ。オカアサンじゃなくなっちゃう」
女は言う。
「メモリーのバックアップはないのかい」
女「最近のはある。今渡すわ。でも、昔の記憶はバックアップか取れないの。読み取り不可能。だけど、オカアサンはそれを覚えてる」
老人「そんな状態じゃあ、ムリだな。でも、念の為、調べさせてくれ」
老人は個体識別番号をスキャンする。単眼拡大鏡が青く光った。何か検索条件に合致した証拠だ。
「2クレジット出すなら引き受けよう」
老人が言う。
「料金が倍になったわ」
「2倍は当然だよ。2回分だ」
「なんで?」
「約束があった。忘れてたけどな」
「忘れてた?」
「あんたも忘れてるみたいだな。とにかく2クレジットだ」
「仕方ないね。治るんならそれでいい」
「毎度あり」
「毎度じゃないわ」
女は言った。
老人はロボットのフレームを修繕し、樹脂の入ったプールに入れて被覆も直した。そしてロボットの瞳からコードを流し込む。
「記憶野の初期化が実行されます。メモリは全て消去されます。よろしいですか」
「初期化!」
女が不安げな顔をして作業を見守っている。
老人は女から預かったメモリーをオカアサンの頸のインターフェイスから読み込ませる。
そのあと、自分の作業机の抽斗の奥にあった封筒から手紙とメモリチップを取り出した。そして、メモリチップをロボットの頸に当てた。
「メモリが2つインストールされます。2つの記憶をどのように処理しますか?」
との音声メッセージ。
「2つの記憶をマージしろ」
老人は言う。
「記憶野の再構築を開始します」
オカアサンの目が輝く。
「再構築が正常に完了しました」
光は消え、瞳は人間めいた色を取り戻した。
「オカアサン、大丈夫?」
女が言う。
「ええ。大丈夫よ。なんか若返ったみたい。私はあなたのオカアサン。託されたあの日からね」
オカアサンは笑顔で言った。
かつて母がいた。
母は燃える町で傷を負い、幼い娘の生命をベビーシッターロボットに託した。そのとき、ロボットのバックアップを取らせていたのだ。
「後で必ず払うから。後払いでお願いします」
そう中年の修理人に約束して。
母は傷がもとでなくなり、約束は果たせなかった。しかし、今、娘が約束を果たしたのだった。
「代金が回収できて良かった。まいどあり。お嬢ちゃん」
老人は言った。
オカアサン プラウダ・クレムニク @shirakawa-yofune
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