最終話 主夫の戦場は日常 そして日常は続いていく
ヴェルデに帰ってきてから暫くは本当に忙しかった。
セレスはギルドへエルフの里での顛末を報告(大分都合よく改変させてもらった)
ノルは1カ月空けた工房のあれやこれや(たまりにたまった書類に肩を落としてたが頑張れ社長!俺は長男のノルに期待しているぞ?だらか俺に助けてほしそうな眼を向けないでくれな?)
レーナは大学への帰還報告とドラゴン研究の開始の報告(共同研究のラブコールが凄いらしい。違うラブコールだったらお父さん黙ってられないよ?)
俺は主にご近所さんへのサラの紹介や儀礼官への対応(王都からの儀礼官さんには悪いことをしたと思う。でもサラをみたら何か達観したような顔で「聞きしに勝るモーリス家……」と呟いてあっさりと帰ってくれた。いい人だったので内緒のお土産を沢山渡しておいた。賄賂じゃないぞ?)
ギルドマスターにはまた厄介ごとを持ち込んで悪いとも思ったが、彼にとってはエルフの里の役付となれば自分の管轄ではないとのスタンスのようで却ってよかったらしい。
基本は良い人っぽいので何かあれば協力したいと思うし今度お酒でも一緒に飲もうかな?勿論奢りでだ。
それにサラと一緒に魔物討伐をするセレスは今まで以上に大活躍だし演習なんかも協力することにしたらしい。
ヴェルデのギルドでは厄介な討伐はセレスとサラのペアが対応するし、修行も付けてくれるというので逆に王都からの移籍が後を絶たないらしい。
工房では職人さんたちがノルに余り工房を空けないで欲しいと嘆願していたらしい。
仕事が回らないとかではなく、単純に職人さんたちが全員が書類仕事が嫌いらしい。革新的なもの作りに熱中しているノルベルト工房では花形は開発部。あくまで順番ではあるのだが裏では熾烈な争いが繰り広げられているらしい。
ノルは自身の開発欲を抑えて書類仕事をしているらしいが……嫁さん貰って事務仕事手伝って貰うことも考えたらどうなんだろう?この世界で20歳越えたら遊び足りないとか言ってられないぞ?
まぁ俺が言えた義理じゃないしそこはノルに任せるしかないんだけどな。
大学ではサラが大人気だ、主に鑑賞目的で。最初は研究欲で接してきた学者さんたちも今ではサラのファンとして接してきている。
正直研究と言っても本人に聞けば疑問点は大体答えてくれるしね。それともう一つ俺にとってはだがいいこともあった。
龍の研究は学者さんが寄ってくるほど珍しいわけだが当然だが龍族の病気の知識なんかはどこにもない。サラが言うには早々病気になんかならないらしいが人間でいう風邪みたいのはたま(何十年に一度)にはあるらしい
それでレーナのメイン研究が龍の、特に風邪を引いた際の薬の研究にシフトしたんだ。レーナもなんだかんだサラへの愛情があるようで俺も嬉しい。
それに異世界人の繁殖関連の研究が後回しにされることが少しだけ嬉しい。俺の子供が云々より治験がなくなったことがね、主に俺の舌が喜んでいる。
そうそう、サラと言えばご近所の皆さんにも非常に人気がある。そりゃ大型犬くらいのサイズの愛くるしい龍だ、しかもしゃべるし。そんでお菓子あげたりすればそりゃー喜ぶ。素直さも相まってもはや街のアイドルである。
ただご近所さんのペット、犬や猫なんかは最初メチャクチャ怯えてしまった。力を抑えても動物はそういうのに敏感なのかもしれないな。
でもしばらくしたら段々とだが慣れてきてくれたらしい。怯えられることに落ち込んだサラを宥めるのが一番苦労したところかな。
でも好奇心旺盛なサラにとって街での生活はとても魅力的らしい。こんな経験できる龍は滅多にいないはずだと喜んでいる。サラが言うにはウチみたいな特殊な家族じゃないと龍との生活なんてそもそも考えることすらできないらしい。
それにご近所含めて街の皆さんにに受け入れてもらえるように主夫スキル
「ウチの家族をよろしくお願いいたします」
で出来る限り好印象を持ってもらえるように根回しもしたしな。動物に効果が無かったのは残念だった。
まぁそれくらいの苦労で元の生活、いやサラがいる分、元の生活よりも充実した生活に戻れたんだから全然いいんだけどな。
そんなわけで貴族になることもなくモーリス家は建前上は一般人のままとなったわけだ。そりゃ生活や能力は一般的ではないけれど。
エルフ自体がそもそもチートだったんだろうな。王都に行く必要すらなかったし。
うーん、考えれば考えるほどエルフであり、エルフのなかでも優秀なセレスが何故俺を選んでくれたのかは分からないなぁ。
個人的には胃袋を掴んだと思ってるんだけどな。サラにしたって割と胃袋でついてきた感があるし。まぁ幸せならいっか。
「ねぇジョージ、ちょっと話があるんだけどいい?子供たちのことでちょっとね」
今日はセレスと俺の二人だけだ。子供二人はそれぞれ職場でサラも今日は大学にいる。珍しく神妙な面持ちでの相談に勿論と頷き続きを促す。
「あの子たちも大きくなったし結婚も考えて欲しいんだけど、そのことでね。別居を考えてるのよ。あ、いや、別に一緒に住むことが悪いわけではないのよ?ただあの子たちが結婚しない理由にさ、同居してるせいもあるかなって。一つにはこの家、快適すぎるのよ」
「快適なのはいいことじゃないか。それに俺の仕事は主夫だ。家族のみんなに快適でいて欲しいと思っちゃうぜ?」
「過ぎるのも良くないのよ。二つ目は親離れ子離れの問題って言えばいいかしら?あたしはまだいいのよ、それよりあの子たちはあなたにべったり過ぎるわ。
ノルは多分だけど奥さんにする人にジョージ並みの家事や内助の功を求めてる節があるのよ。だからお付き合いはしても結婚まで考えられない。勿論、本人だってジョージほどの家事を奥さんに求めてないでしょうけど、それでも普通の人より理想が高くなっちゃってる。
レーナは論外。あたしが言えたことじゃないけどあの子に生活能力は無いわ。なので求める夫像はまさにあなたそのもの。主夫としてジョージと比べられる男連中がかわいそうでしかたないわ。なので別居。そうすれば少しはジョージの影が薄れんじゃないかな?って」
言われると俺は考え込んでしまう。あの子たちは本当の親子同然に接してきた、と思う。俺に血の繋がった子供がいないので分からんが少なくとも自分の子と思って育てて来た。
それだけに愛情はあるのだがもしかするとありすぎるのかもしれない。過ぎるのも良くないってのは俺に対しての想いも含まれてるのかもしれないな。
どこかで本来の親子以上に愛さなければと思ってしまう?いや、そうじゃないな。なんだろう、上手くは言えないけど、そうか。
これが子離れが出きてないってことなのかもしれない。で、二人も俺に対して親離れが出来ていない、と。
「勿論、別居したからって関係は今まで通りよ。ウチにご飯食べに来てもいいしさ、ってか外食ばっかってのもちょっとな、とは思うし。レーナは掃除にもたまにはいかないとかもしれないわね、はじめのうちは。でもそのうちきっと世話してくれる男が見つかるわ。私にとってのジョージがね」
うーーーーーん、レーナの家に世話をしに来る男のことはちと考えたくないな。それは世の父親みんなそうなんじゃないか?
でも、そうか。それも必要なのかもしれないな。いつかは俺の手を離れていくのは、それはもう仕方のないことなんだし。
そんなセレスとのやり取りの後、二人に話をしたら思いのほかあっさりと了承され二人はそれぞれの新居へと引っ越した。
それぞれ徒歩3分のご近所さんではあるが、俺たち家族は新たな形での生活をスタートさせたのだ。
きっと二人ともセレスと同じようなことを考えていたのかもしれない。まぁ二日に一度は呼ばれてるので毎日どちらかの家には顔を出しているのだが。
孫の顔を見られる日も近いのかもしれないな。
―――――――――――――――――
「なぁセレス。こうして二人で過ごすことって、実は初めてじゃないか。あ、いやサラもいるから3人かもしれないけど。でもサラはウチとノルとレーナの家をローテーションしてるしたまにどこか分からないけど外泊もしてるからやっぱり二人か?まぁいいか。改めてなんだ、新鮮に感じないか?」
「そうね、なんか新鮮かもしれないわね。そうだ!ジョージとは結婚してからずっと家で過ごしてたし子供たちもいたしで旅行なんてしなかったじゃない?家族旅行じゃなくて新婚旅行的なやつね。あたしはちょっと、ううん、凄くしたいかも」
「新婚旅行か、この世界にもそんな習慣があるんだな。レーナの家が大丈夫かな?いや、いっそ暫く完全に一人でやってもらうのもいいかもしれないな。そう言われると俺もしたくなってきたな旅行。サラにも我慢して貰って二人でどこか、そうだな海の近くの街なんてどうだ?」
「ジョージにそういって貰えると嬉しいわ、海ならあたしも賛成よ、サンチェなんてどう?……ジョージ、本当にありがとうね。こんな子連れの、しかも家のことなんにもできないあたしと結婚してくれて。
しかもあのころは二人とも小さかったし苦労もたくさんしたでしょう?あたしの態度だって悪かったはずよ、あのころはなんていうか、余裕もなかったし、さ」
「いやいやセレスは美人だし強かったし優秀な冒険者だったし。子供たちだって小さかったしそりゃ手は掛かったけど、それでもすごくいい子たちだったし。
ノルは父親覚えてるだろうに俺のことを本当の父親として慕ってくれてる。レーナだってそうだ。寧ろなんでセレスはあの時俺を選んでくれたんだ?弁当か?あの弁当で大分セレスの態度が軟化した覚えがあるんだよなぁ。変な意味じゃないぞ?作って良かったな、と思ってんだ」
「ふふっ、あのお弁当は美味しかったし、バフが掛かる料理なんて初めてだったわ。超高級品なのよ?バフ掛かる料理なんて。まぁでも、結婚を迫った本当の理由はそんなことじゃないわ。そうね、あなたに好意を持ったのはお弁当がきっかけだったかもしれないけど……ジョージに惚れたのは別の理由。それはね、あなたが強かったからよ。私より誰よりも。今ま出会ったた中で一番に、あなたは強かったわ」
「俺が?強い?いや、俺はサポ―トは優秀だったかもしれないが強くはなかっただろ。今だってなんとか平均的な冒険者くらいか?それもノルの武器防具使ってなんとかだ。当時の俺より強い奴なんていくらでもいただろう?」
「違うわ。それは敵を倒す強さってだけよ。逆に考えてよ。自分では絶対に倒せないだろう敵と相対する感覚を共有して。そんな敵から受ける攻撃のダメージを肩代わりして。私が死ななくてもあなたは死ぬかもしれないのよ?私の方が耐久力高いんだから。そんなスキルを当時はまだ付き合ってもいなかったあたしを救うために使ってくれて。この間のレーナをかばった時だってそう。
それだけじゃない、あなたはずっとそうだった。精神的なことでさえ痛みを共有してくれる。自分の痛みだけじゃなくて人の痛みを共有できる人が強くないわけないじゃない。そんな勇気はあたしにもないわ。だから、ジョージはあたしの勇者様だったってわけ。」
「俺には強敵に立ち向かっていく勇気が無いからな。それを持ってるセレスは俺にとっての勇者様さ。セレスが初めの一歩を踏み出してくれるんだ。俺はそれを全力でサポートするだけだ、健やかなるときも、病める時も、心や体を痛める時も、だ。永遠の愛を誓ったんだからな」
「本当に嬉しいわジョージ。でもお互いに足りないところを補い合える私たちは最強の夫婦じゃない?それに家族もね。みんな足りないところはあるけど、それでも力を合わせれば、私たち家族は最強よ!」
あぁ、そうだ。最強で最高な妻と家族に囲まれて、俺も本当に幸せだぜ。
そんでもってみんな足りないところがありながらも必死で生きていくんだ。時に助け合いながらな。
セレスは冒険者として
ノルは工房主として
レーナは学者として
サラは……龍として?
そんでもって俺はそんなみんなを支える主夫として、だ。
これからもずっと俺たちの日常は続いていく。主夫にとっての戦場である日常がな。
そんな日常を世界で一番愛する妻と、世界で一番愛する家族に囲まれて過ごせる俺はチート級に幸せだよな?
俺は胸を張って言えるぜ。俺と、俺たち家族は、世界一幸せだってな!
異世界で子連れエルフと結婚して15年。妻も子供も超有能で俺だけ一般人だけど主夫スキル「内助の功」で家族を支えているんだぜ? 江戸バイオ @edobaio
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