転生魔人の異世界冒険録【カドカワBOOKS10周年記念長編コンテスト 中間選考突破】

舞川K

第一章:舞い降りる魔人

プロローグ 自称普通の高校生

皆は『完全記憶能力』と聞いて、どんなことを考えるだろうか。この能力は、一度五感で感じ取ったものを瞬時に記憶できる能力だ。いわば、超記憶症候群のことである。このことを話すと、いつも『羨ましい』とか『そんな能力あったらテストとかも楽勝じゃね?』とか言われる。多分、そんなふうに考える人が多いのではないだろうか。なんでこんなことが分かるのかって?俺もその能力を持っているからだ。確かに、テストをはじめとした勉強で苦労したことはない。なぜなら、どんな授業でも一度教科書に目を通せば覚えられるし、英語などもネイティブの人たちの会話を聞いていれば、そのうち話せるようになっていくからだ。でも、俺はこんな能力なくてよかった。誰かにあげられるならば是非とも譲りたいぐらいだ。俺はいつも考えている。



『こんな能力なんてなければよかった』と



******************


4月。それは出会いの季節。学生であれば新たな学年、新たな学校での生活に心躍らせているのではないだろうか。また、社会人であれば新しい職場での入社式なども行われる時期だろう。


俺は、どこにでもいる記憶力がいいだけの、普通の高校生。この記憶力の良さを存分に使い、この星界学園へと入学を果たした。俺の名前は三剣城響輝みつるぎ ひびき。よく周りの人からはイケメンだのなんだの言われるが、大して興味はない。俺にはがいてくれればいい。に裏切られようものなら、俺は10歳ぐらいの頃と同じような状態になってしまうだろう。そして、もう二度と普通の状態に戻ることはないだろう。


「よっす」


「おう」


淡白な挨拶をされたので俺も淡白に返してやった。


「今日は彼女さんと一緒じゃないのか?」


「悪いかよ。アイツ『今日入学式だから、遅刻するわけにはいかない』って言って先に行っちまったんだよ。おかげで今日の朝二番に見る顔がお前とはなぁ……」


「ああ、あの人、朝に弱いもんなぁ……。そういえば、中学校の入学式、思いっきり遅刻してたな。っていうか『朝二番』ってなんだよ。普通『朝一番』って言うもんだろ……。ちなみに、朝一番に見たのは誰だったんだ?」


「近所のおばちゃん」


「そうかい」


こいつは神白優斗かみしろ ゆうと。名前とは裏腹に、人をからかって遊ぶのが好きなやつだ。ちなみに、こいつと俺は幼馴染である。正直言って、腐れ縁だが。そんなふうに話しながら歩いているといつの間にか高校についていた。昇降口には、クラス分けが書かれている張り紙がある。それによると、俺のクラスは一組らしい。『同じクラスに知り合いはいるかなー』なんてことを考えながらクラスのメンバーの名前を見ていると、その中に『姫川雪音ひめかわ ゆきね』と言う名前があるのを見つけた。それを見た瞬間、俺は小さくガッツポーズをしていた。何を隠そう、彼女は俺の恋人であり、優斗との会話で何度か出てきたである。自分の恋人と同じクラスになったのだ。思わずガッツポーズが出てしまうのも仕方ないというものだ。むしろ、叫ばなかったことを褒めて欲しいぐらいだ。


ちなみに、優斗も同じクラスだった。まじで腐れ縁だな。俺と奴は。なんにせよ、高校生活も楽しくなりそうだ。


******************


入学式が始まった。校長先生やお偉いさんたちの長い話を聞いて、寝ているやつもいる。優斗も寝ていた。でも俺は寝ていない。いや、。普段であれば辛いものだが、こういう時には便利である。どんなに退屈な長い話を聞いても眠らないんだから。


入学式の終了後は、各クラスの教室に戻り、自己紹介やら教科書の配布をして、担任になった深山みやま先生という男性教員の話を聞いて下校である。


******************


時が経つのは早いもので、入学式から三ヶ月ほどたち、一学期の終業式の日を迎えた。明日からは、みんな大好き夏休みの始まりだ。校長先生や担任の話を聞き、雪音と一緒に下校していた。そんななんてことない帰り道に、事故は起こった。


「明日から夏休みだねー。響輝くんは夏休みに何するの?」


「んー、まだ考えてねえなあ…とりあえずは速攻で課題終わらせてからいつものように配信しようと思ってるけど……」


俺はゲーム実況をやってたりする。最近登録者も100万人を超えたので、それなりに知名度はあると思っている。クラスや学校ではあまり話題になってなかったが。


「それじゃあいつもと変わらないじゃん。一緒に遊びに行こうよー」


「それってデートの誘いってこと?」


「えっ……そういうことになる……かな?」


うん。やはり今日も可愛い。いじりがいがある。


「それもいいな。どこか行きたいところとかある?」


「うーん……ディズ○ーとかはどうかな?」


「よし、じゃあそこ行くか。」


「ホント!?やったぁ!だよ!」


照れてる顔もいいけど、やっぱり喜んでる顔が一番だな!


「ちょっとトイレ行ってくる。ここで待ってて」


「うん、分かった」


ここで雪音を一人にしたことを、俺は後悔することになる。


******************


ほんの数分、目を離していただけだった。俺がトイレから戻ってくると、雪音が不良っぽい男二人に絡まれていた。何か揉めてるうちに、頭に血が登ったのか、男のうちの一人が雪音を突き飛ばした。突き飛ばされた勢いで雪音は車道に飛び出してしまった。そこに、居眠り運転をしている暴走車が突っ込んできていた。それを見た俺の体は、考えるより先に走り出していた。雪音の手を掴み、雪音を抱き抱えるように庇った。倒れ込む俺と雪音を目掛けて車が突っ込んでくる。背中に強い衝撃を感じるとともに、俺と雪音は吹っ飛ばされた。地面をバウンドした後に勢いが収まった。途中で雪音のことを離してしまったようだ。俺から少し離れたところで止まった雪音が、ゆっくりとこちらに歩いてくる。どうやら、俺の防御は、無意味ではなかったようだ。


「響輝……くん……」


「ゆ…きね…だい…じょうぶ…か」


「わ…私のことより、自分のことを心配してよ!待ってて、すぐに救急車を呼ぶから!」


「ぶ…無事…みたい…だな。よかった。」


身体中が痛い。意識も朦朧としてきた。通報している雪音とざわつく周囲の声が聞こえてくる。


「響輝くん!絶対死んだらダメだからね!もう少し頑張って!」


左手が暖かい。雪音が俺の手を握ってくれているのだろうか。


「ゆ…きね、おれの…ぶんまで…生きてくれよ…」


いつの間にか、身体中の痛みを感じなくなっている。俺は、もうすぐ死ぬんだろう。


「そんなこと言わないで!はどうなるの!死なないでよ!」


約束…か。


「ごめん……」


意識が消えかけているのを感じる。もう、雪音の顔もはっきり見えない。でも、雪音が泣いているのだけはわかる。


「響輝くんがいなくなったら、私、どうすればいいのかわかんないよ!お願いだから、死なないでよ…。私の前からいなくならないでよ!」


全身の力が抜けてきた。まぶたも重い。


「……」


もう、声も出せない。


******************


そして、俺の意識は消えた。『もし、この世界に輪廻転生なんてものがあるのなら、また、雪音と一緒に……』そんなことを考えながら。


意識が消える直前、『その願い、聞き届けました』という声が聞こえた気がした

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