いい子じゃ君は振り向かない。
音央とお
繰り返し見る夢(プロローグ)
繰り返し、何度も見る夢がある。
複数の子どもたちが教室の中央に目を向けている。真ん中にいる4人の子どもの目の前には椅子が3つあって、ここまで奪い合ってきたゲームもほぼ終盤に差し掛かっていた。
「ここまで残ったのは、はやとくん、たかひろくん、みおちゃん、もみじちゃんの4人ね!じゃあ、最後の椅子には誰が座れるかな?」
先生がピアノを弾き始める。軽快な音が止まる瞬間を今か今かと待つ。……来た!
腰を下ろしかけた瞬間、ドンッと体が突き飛ばされた。
「へへっ、俺の勝ちー!」
たかひろという大きな体の男の子に押しのけられたと気付いたのは、床に尻もちをついてからだった。もう私が座れる椅子は残っていない。
「もみじは鈍臭いなー!」
いつだってこいつは乱暴で嫌なやつだ。
みおが不安そうにこちらを見ている。勝ち残っているのにちっとも嬉しそうじゃない。
はやとは誰が残っていても興味が無さそうで、そんな姿に涙がどんどん溢れてくる。
「そういうゲームなのに泣くんじゃないぞ! オマエだってここまで奪ってきたんだから。もみじが弱いから負けたんだ!」
うるさい! うるさい!
先生がたかひろに「やめなさい」と注意しているけど、たかひろなんてどうだっていい。その証拠にまだ何か言っているけど耳には入ってこない。
ああ、そうか。
はやとが私を見ないから悲しいんだ。
そう気付いた瞬間、視界がぐちゃぐちゃと歪んで足下に現れた黒い影に引き込まれていく。なんで? どうして?
黒い影は大きくなっていくけれど、そっちにははやとがいない。私は「嫌だ、嫌だ!」と泣き叫ぶ。連れて行かないで!
ばたばたと手足を動かしても強い力には敵わない。まるで大きな魚にでも飲み込まれていくかのようで、気持ちも恐怖にじわじわと追い詰められていく。
「は…やと……!」
やめて!やめてよ!なんで助けてくれないの?まるで私が見えていないみたいだ。
ねえ、どうしたら私を見てくれる?
こっちを向いて名前を呼んでよ!助けて!助けて! 名前を呼ぶことができなくなっても、私は指先が飲み込まれる瞬間まで手を伸ばし続ける。けれど、そこを掴んでくれる人間はいない。
ああ、夢の中の君はいつだって薄情だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます