第17話 かわいい義妹ができました 天side
花見が終わって、相楽くんを車で送って帰宅した。
家の門をくぐって、はあああ、と深くため息をつく。
どうにか表情を保っていたけどもう限界だ。
「お嬢どうしたんすか!? 俺のお花見のセッティングになにか問題あったんすか?! くそう、早朝からじゃなくて前日の夜からもっと準備しとくんだった」
「ううん、松田の用意は良かった。急にお願いしたのにありがとう」
私は松田に労いの言葉をかける。
「するってえとなんですか。お花見が楽しめなかったんですかい? 相楽さんと上手く話せなかったとか」
「それでもないわ。お花見はとても良かった」
続いて、岩橋の心配を否定する。
相楽くんと私、そしてお互いのぬいに着物をきせて沢山写真を撮った。
ぬい達と同じ時間と空間を存分に味わうことができて、途方もない満足感がった。
相楽くんに膝枕もしてあげられてたし、まどろんで甘える姿はとてもかわいかった。
「お花見は、ってなんか含みのある言い方ですね。なにかあったんすか?」
「思い出したくもない……。誰なのあの女」
それは、最後に相楽くんに届いたメッセージの相手。
お花見の空気を全て持っていった憎き相手。
私は呪詛のように「誰なのあの女」と唱えながら、家へと上がり、自室へと向かう。
『そうちゃん、次の休み遊びに行くからね』
メッセージにはこう書かれてあった。
次の休みに遊びに行くっていつのこと?
相楽くんは私と同じで交友関係が広くないから特定は容易なはず。
明日学校でそれとなく聞き出そう。
それにしても、相楽くんが他の女のことを考えるのは耐えられない。
明日はひと肌脱いで、私のことで頭がいっぱいになるようにしよう。
そして、私は、次の日に相楽くんに大胆な写真を撮って送ることを決めた。
そんなことをして相楽くんは私のことを考えてくれるのだろうか、不安だけれど。
そして、土曜のお昼。
ターゲットが家を出たので私は後をついてく。
ターゲットは、もちろん相楽くんのこと。
今週土曜のお昼に予定があるというのは、学校で確認済み。
きっとそこでメッセージを送ってきた女と会うんだ。
後をつけてるのは、相楽くんが友達とはいえ変な女と会っていないか、相楽くんに相応しい人間かを私が見極めるためだ。
なにもおかしいことじゃない。これは使命といってもいい。
でも極秘だから誰にもバレるわけにはいかないけど。
私は相楽くんのあとを、体を小さくして移動する。
身長の高い自分が恨めしい。身を潜めにくいじゃない。
この大きな胸も邪魔だ、電柱の後ろの隠れても胸が隠れきらない。
見失わないようにあとをつけなくちゃ。
街をゆく相楽くんに背後から、じーっと視線を浴びせる。
あぁ、今日の相楽くんはピシッとしていてかっこいい。
相楽くんは家にいる時は制作をするためかラフな格好だ、無防備な姿を晒してくれるのはとても嬉しい。首の広いスウェットから見える鎖骨はたまらない。
でもこうして、休日にシャツを着た相楽くんも良き。
……待って、女と会うためにしっかりしてるの?
そう考えだけで、はらわたが煮えくり返りそうになる。
鎮まれ、鎮まれ。
そして駅に着いた。
あれは、アイコンに写っていた金髪の女だ。
出会い頭にそうちゃんだなんて呼んで馴れ馴れしい、いったい何様のつもり?
私は相楽くんに、そうちゃんって呼ばせて貰えなかったのに。
胸の中に黒いどろどろとした気持ちが
あ?
目の前で、あろうことか腕を組み始めた。
なに腕なんて組んでるの?!
胸当たってるから離しなさいよ。私の方が大きいんだから。
そんなことして相楽くんが喜ぶとでも?
ねえ、相楽くん。なんで、振り解かないの……?
まさかあの二人……。
私の頭のなかに最悪のシナリオが過ぎる。
「ひいぃぃ!」
青ざめた顔をした男性が悲鳴を上げる。
殺気が漏れでてたのか、驚かせてしまったみたい。
私はすぐさまその場から離れて身を隠す。
許せない。許せない。許せない。
それから金髪のギャルはあろうことか、私と相楽くんの初めてのお出かけの記念すべきカフェに向かっていた。
私への当てつけ?
いや、落ち着けあの女は私と相楽くんがあの場所に行ったことは知らないはず。
遠くから見ているので話の流れは分からないけど、相楽くんは金髪ギャルに私と行った時の写真を見せていた。
いいよ相楽くん! もっと見せつけてやって!
声は聞こえないけど、どうやらあの女、相楽くんが写真を見せてるというのにあの様子じゃ全然信じていないようね。
ふふ、私に取られそうになっているのがそんなに悔しいからって現実逃避をしているのかしら?
それから、どこにいくのかと思っていたら、ついたのは相楽くんの家だった。
金髪ギャルがスーパーに寄っていたからまさかとは思ってたけど、今から二人でご飯でも食べるの?!
相楽くんのご飯は私が作るのに〜!
「きゃぁっ!」
家の前で張ってしばらくしていると、中から悲鳴が聞こえた。
あの子声だ、そして相楽くんの慌てている様子が扉越しから伝わってくる。
「相楽くん開けて!」
心配でたまらなくなった私はバレることもいとわず、扉を叩いて相楽くんの家に入り、火災を止めたのだった。
そして、なぜか正座をしている二人を私は見下ろしながら、お話をすることにした。
なんでこんな危ないことになったのか、そしてこのままの勢いで二人の関係を問いただすため。
「違うよ
そして、金髪ギャルはなんと
だからあの距離の近さや呼び方も納得できる。
「じゃあ
「今日は、妹の
「よ、良かった……」
女友達というのもあまりいい気はしないのに、彼女やましてや婚約者といった関係じゃなくて酷く安堵した。
「
「ううん、妹さんが元気だったのならそれでいいの」
どうやら私の早とちりだったみだいだ。
怒る気なんてさらさらない。
だって、相楽くんの妹さんが生きていることは喜ばしいことだから。
「
それに、今の状況はとても良い。
妹の
『天ねえ』とても良い響き。喜びに体が震える。
私と相楽くんが家族になったら、咲茉ちゃんは妹になる。
料理を作る私を、見守っている相楽くんと咲茉ちゃん。
あ、手を振ってる。エプロン姿の私もにこやかに手を振りかえす。
そんな妄想をしてしまう。
これまでとても憎たらしく思っていたのに、妹さんだと分かれば天使のようにかわいい。
それに妹さんと話す
「天ねえがそうちゃんと結婚すればいいんだよ! そうすれば、
どきっと胸が跳ねた。奇しくもそれは私と同じ考えだったから。
その時、咲茉ちゃんとは本当に仲良くできると確信した。
でも表情を崩すわけにはいかないので、感情を出さないようにする。
慎重に、慎重に、気づかれないように外堀を埋めていくのだ。
咲茉ちゃんを送って家に帰り、シャワーを浴びてると、脱衣所に置いてるスマホにメッセージが届いていた。
私は下着だけを履いて、タオルを首に下げて、内容を確認する。
『天ねえ、今日はありがと!』
そんな内容とともに、手を合わせている猫ちゃんのスタンプが送られてきた。
相手は
私はコミュニケーションが得意な方でないから、沢山話しかけてくれるのは有り難いし嬉しい。
これからもずっと、会うたびに猫可愛がりしてしまうだろう。
『お母さんに天ねえのこと伝えたら、仲のいい子ができて良かったってとても喜んでたよ! それととっても美人さんね、だって!』
メッセージがぽんぽんと連投される。
まだお会いしていないけれど、これで第一印象は悪くないだろう。
私も、ありがとう、という旨を返信する。
『これいってたやつ!』
「はわわ……か、かわいい」
その後、
助けてくれたお礼になんでもするよ! といっていたので
私が知らない頃の
脱衣所で体が冷めてしまうのも気にすることなく、うっとりと眺めてしまう。
そういえば
その情報は思わぬ収穫だった。
私が初めてを全て奪うチャンスがあるということ。
ぐふふ。
いけない、思わず変な笑い方になってしまう。
今日会ったばかりなのに、もう相楽くんに会いたいな。
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