第14話 ……他の女には呼ばせてるのに
「
「なに」
「近くない?」
「教科書忘れたから仕方ないよ」
机を並べて座っているとはいえ、しなだれかかりそうなほどの距離だ。
隣から甘い香りが鼻腔をくすぐる、教科書を見るたびに
「そうだけど……」
これまでの授業で全てを教科書を忘れているのは、どうなんだろう。
なにかあったのかな?
というか今は休み時間になのに、机をくっつけたままだ。
そのせいで教室ですごい視線に晒されてる。
当の
心なしか俺の方だけを見ているような……、気のせいか。
しかし、
助けを求めるように俺がちらっと周囲を見回すと、クラスメイトはさっと視線を逸らした。
あれー? なんでだ。
「やべえ、
「聞いたかよ。
「ああ、組の総会とかいう噂だぜ」
「厳つい人が頭下げてたんだとよ、怖えぇ」
お花見に行っただけなのに、変に誤解されてる?!
それに
誤解を解こうにも、友達がいないコミュ障の俺が自分から話しかけて、ひとりひとりの誤解を解くなんて真似はできそうもなかった。
お昼休みに入って、俺たちは体育館裏にいた。
「いただきます」
今日は菓子パンではなく、
お花見をした日、
ばにらちゃんに作ってあげた着物をかなり気に入ってくれたみたいだ。
流石に悪いなと思ったんだけど、
「美味しく食べてね?」
小首を傾げていう
……思春期すぎるだろ俺!
そんなことを想像してしまうのも、少々無理もないことだった。
なぜなら、今朝
エプロン姿にフライパンを持っている
実際はタンクトップにショートパンツを着ていたんだけど、露出が多い……!
あれは
『そそられる?』
食欲をだよね。
『美味しそうだね』
料理についての感想を聞かれたから、その感想を返しただけ。
なのに、どこか意味深なやり取りに思えてしまう。
そんなこんなで朝から悶々とさせられられているわけだ。
お弁当を食べ終えて、
「相楽くん、眠たくない?」
「ううん、大丈夫」
「いつでも私の膝を使っていいから」
ぽんぽんと
その仕草に、俺はお花見での醜態を思い出す。
あの日、眠気が襲ってきた俺は
夢うつつだったとはいえ、断るべきだった。
それに、最後の方はなにを話していたかあんまり覚えてないんだよな……。
変なこといってないよな?
俺の記憶に残ってるのは
「麗鷲さん、あれは本当にごめんなさい!」
俺は深く謝った。
「いいよ、私が聞いたんだから。それにしても
「ここ学校だし……」
「でも、誰もいないよ」
あれは外で麗鷲の名前を出さないための案だというのに、
「そうちゃん」
「んえ?!」
「なんで?!」
「
変じゃない。むしろ良い。
でも、呼ばれるたびにどきっとしそうで心臓に悪い。
「んんっ、
「……他の女には呼ばせてるのに」
けれど
その視線に、俺は蛇に体を締め付けられているような緊迫感を覚えた。
呼吸が浅くなる、息が苦しい。
こうして
彼女にその気はないんだろうけど、極道一家として周囲に極道がいるのが普通という環境で積み重ねた日々が醸し出す圧力は、時折、凄まじいものがある。
「ねえ
話が変わり、その緊迫感もウソのように霧散する。
かはっ、息がしやすくなった。
なんだったんだ……?
「今週末は外せない予定があって、ごめん」
麗鷲さんの質問に、俺はパンっと両手を合わせて答える。
「土日どっちも?」
「土曜だけかな」
「そっか、私も日曜は予定があって土曜がいいと思ってたんだけど……。夜はだめ?」
だめ? なんてかわいく聞かれたら無理してでも応えたい。
「予定は日中だから夜は空いてるよ、どうしたの?」
「
「え! 観たい観たい!」
アスタリスクの曲は聞いたことあるけどライブ映像は観たことなかったな、麗鷲さんの好きなものを教えてくれるのは嬉しいし、いい機会だ。
「
「全然平気なんだけどな……」
ふるふると
「大丈夫だから、また今度でいい」
「でも、そっか。ふうん、相楽くんの予定は土曜の日中なんだ……」
ポツリと
目がどこか虚ろな気がするんだけど、そんなに一緒にライブ映像観たかったのか。
そう思ってくれるのは光栄なことだ。
こればっかりは仕方ないんだけど、悪いことしたな。
「次はちゃんと予定合わせて必ず観よう」
「絶対ね」
◇
土曜の昼。
俺はアイロンをかけたシワひとつない服を着て、駅に向かって街を歩いていた。
普段外に出るのは手芸屋さんに行くか、スーパーやコンビニに食料調達するくらいだ。
その時はいつもひとりだから身なりなんて気にしないんだけど、今日は違う。
そして駅の改札に着いた。
改札では数多くの人が行き交うが、その多くの視線がちらちらとなにかに見ていた。
視線の先には、腰ほどの長さの金髪をハーフツインテールに結んだギャルが、駅の広告の柱にもたれかかっていた。
顔立ちは整っていて、ばっちりアイメイクを施された猫目がどこか挑発的な雰囲気が出ている。
デニムショーツから伸びた健康的な脚、トップスもオフショルダーで片方の肩が出ていて、そのどれもが男性の目を集めているんだろう。
自分が注目を集めていることなんて気にする素ぶりもなくスマホを触っていたギャルが顔を上げる。
「そうちゃん、おっそーい」
そして、ギャルがこちらを向いて手をぶんぶんと元気よく振る。
おいおい、そんなことをすると俺が目立つことになるだろ!
案の定、若い男が何人かこちらを向く。
そしてなんでこいつが、という顔をしている。
はあ、嫌だなあ、と思いながら俺はギャルに向かって歩く。
「約束の時間10分前だろ。
「関係なーい。
「無茶いうなって」
自分がかわいいと自覚しているからって、なにいっても許されると思っているところがあるんだよな。
「んー、まあいいや。じゃあ行こっか、そうちゃんの家」
今日は、この金髪ギャルの
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