第377話 もしかしてだけど

 なんだか分からないけど、お父さんとお母さんはグレイさんと話がしたいらしい。


 とりあえず言われるまま、ふたりをグレイさんのもとへ連れて行くことにした。


 グレイさんは、ぼくが「待て」をした場所で伏せをして待っていた。


「グレイさん!」


『シロちゃん、ずいぶんと早かったな。もう別れの挨拶あいさつは済んだのか?』


 近付いて行くと、グレイさんは立ち上がってしっぽを振り始めた。


 ぼくの後ろにお父さんとお母さんがいるのを見て、グレイさんは首をかしげる。


『ん? お父さんとお母さんじゃないか。ふたりはもう、旅へ出られないんじゃなかったのか? それとも、行けるようになったのか?』


「お父さんとお母さんは、グレイさんとお話しがしたいって言っているミャ」


『お話し?』


 グレイさんはトマークトゥスだから、ネコの言葉はしゃべれないし聞き取れない。


 お父さんとお母さんもネコだから、トマークトゥスの言葉は分からない。


 両方の言葉を理解出来るのは、ぼくだけ。


「ぼくが通訳するから、お話ししてミャ」


 ぼくが話をうながすと、お父さんがグレイさんに向かって口を開く。


「グレイさんは、うちのシロちゃんをどう思っていますニャー?」


『シロちゃんは、オレの運命のつがいだ。心から愛している』


 お母さんはぼくを抱き締めながら、グレイさんに頼み込む。


「私たちにとっても、シロちゃんは大事な子ですニャ。だからどうか、守ってあげてくださいニャ」


『大事なつがいを守るのは、当然だ。オレの命に代えても、守ると誓おう』


「ふたりとも、必ず生きて帰ってきてくださいニャー」


『分かった、必ずシロちゃんを連れて帰る。だから、お父さんもお母さんも安心して待っていてくれ』


 ぼくは3匹の会話を通訳しながら、困惑こんわくした。


 いやいや、ちょっと待ってっ!


 確かに普段から、愛しているだのなんだのと言われているけど。


 ぼく、いつの間にグレイさんとつがいになったのっ?


 ぼくとグレイさんは種族が違うし、オス同士だからつがいにはなれないよっ!


 もしかしてグレイさんは、種族が違ってもつがいになれると思っている?


 そもそも、つがいの条件って何?


 イヌ科の動物は一夫一妻制いっぷいっさいせいで、家族のきずなが強い。


 ネコ科はつがわないし、家族の概念がいねんもない。


 ぼくのお父さんとお母さんみたいに仲良しで、ずっと一緒にいるネコもいるけどね。


 冷たいようだけど、普通のオスネコは子育てをしない。


 母ネコも離乳期りにゅうき頃(生後4ヶ月頃)になると、オスの仔猫こねこは突き放すようになる。


 逆にメスの仔猫こねこは、側に置いておくらしい。


 ぼくのお父さんとお母さんだけが、異常いじょう過保護かほごなんだよね。


 あれ? もしかしてだけど、ぼくってメスだと思われている?


 ぼくが気付いてなかっただけで、実はメスネコだったとか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る