第376話 ふたり旅

 ぼくはしょんぼりしたまま、イチモツの集落しゅうらくを出た。


 グレイさんはぼくの足音とにおいを覚えているらしく、ぼくがひとりで集落しゅうらくから出てくると会いに来てくれるようになった。


『シロちゃん! 会いたかったぞっ!』


「グレイさん……」


『ん? どうした? そんなにしょんぼりして。何か悲しいことでもあったか?』


「それが――」


 ぼくはグレイさんに、「お父さんとお母さんが旅へ出られないこと」や「集落しゅうらくのネコは誰も旅へついて来てくれないこと」などを話した。


 グレイさんは真剣な顔で、ぼくの話を最後まで聞いてくれた。


 ぼくの話を聞いて、グレイさんもしょぼんと耳としっぽを垂れる。


『お父さんとお母さんとは、もう二度と一緒に旅が出来ないのか……残念だな』


「それでもぼくは旅へ出て、苦しんでいるネコを1匹でも多く救いたいミャ」


『シロちゃんは、相変わらず優しいな。もしシロちゃんが良ければ、オレとふたりで旅をしないか? シロちゃんは、オレが絶対に守ってやるから』


「実はぼくも、グレイさんとふたりで行こうと思っていたミャ」


 ぼくがうなづくと、グレイさんはうれしそうに笑顔を浮かべてしっぽをブンブンと振り出す。


『そうか! やはり愛するもの同士、考えていることは同じだなっ! それで、いつ旅立つんだっ?』


「これから、集落しゅうらくのみんなにお別れの挨拶あいさつをしてくるミャ。グレイさんは、ここで待っててミャ」


『分かった、待っている! シロちゃんとふたり旅、楽しみだなっ!』


「うん、ぼくも楽しみミャ!」

 

 グレイさんは「待て」の合図をされた犬のように、その場でおすわりをした。


 散歩が待ちきれない犬みたいに、そわそわしているグレイさんが可愛い。


 ぼくは毛づくろいをして、グレイさんのにおいを消してから集落しゅうらくへ戻った。


 🐾ฅ^・ω・^ฅ🐾


 まずは、お父さんとお母さんのもとへ向かった。


「お父さん、お母さん。ぼく、グレイさんとふたりで旅へ行って来るミャ」


「ニャニャー? ふたりで旅ニャーッ?」


「グレイさんとふたりっきりなんて、とっても心配ニャ」


 何故かふたりから、物凄ものすごく心配された。


 お父さんとお母さんはグレイさんと一緒に旅をしたことがあるから、グレイさんがどんな性格か良く知っているはず。


 グレイさんはトマークトゥスだから、旅について来てくれたらたのもしい。


 それなのに、何を今さら心配する必要があるんだろう?


 まさか、グレイさんがぼくを食べちゃうかもしれないと思っているのかな?


 グレイさんは愛猫家あいびょうかだし、ぼくのことが大好きだから絶対食べないのに。


 お父さんとお母さんはけわしい表情で、ぼくに向かって言う。


「グレイさんとは、一度きちんとお話ししないといけないニャー」


「シロちゃん、グレイさんのところへ連れて行ってニャ」


 え? なんで?

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