3−6 陞爵の理由
私と父さんと伯父さん、そしてギャレットは国王陛下の執務室に入った。
執務室の中には既に国王陛下と宰相さんが待ち構えていた。
「急な陞爵になってすまなかったな。しかし、陞爵が出来る様な功績をあげる機会は少ない。カフカースの一件はその点においては役に立ってくれた」
国王陛下はお茶をグビリと飲んでソファーでくつろいでいた。
「しかし、辺境伯閣下の陞爵は理解出来ますが、私達の陞爵には納得出来ない貴族が多いのではないでしょうか。今更、辞退出来ない事は承知をしておりますが、陞爵は兄だけにして私は準男爵のままで良いかと愚考いたしますが」
父さんは居心地が悪そうな感じでソファーに座っていた。
元来、準男爵の立場ならば国王陛下の前に立つことすらないのだ。それが、国王の前でお茶を飲んで、世間話をしているのだ。それは緊張もするし、居心地も悪いだろう。
「精霊様の弟子の親族が準男爵では、他国や我が国の上級貴族達に示しがつかないからな。精霊様達がアリアの後見人となるならば、余とレナードが其方達の後見人になろう。アリアに対して何かを要求してきた時には余を通せと言っておくといいだろう」
「陛下からアリア嬢が平穏を望んでいるという事は聞かされてはいるが、どこからかアリア嬢の噂は上位の貴族達の間で広まっていたのだ。だが、噂の真偽不明だった為、広まり方は限定的だった。そんな中カフカースの爆発事件のニュースが飛び込んできたのだ……」
つまり、私に精霊の弟子の話が出たから、精霊達が人間の世界に興味を持ち介入してきたのではないかというデマが貴族の間で広まったのか。そこで、国王陛下や宰相は世論捜査の為にニヴルヘイムの侵攻説を流布して、精霊に関するデマを鎮静化させようとしていた。……ニヴルヘイムにとっては、イイ迷惑だね。
そんな最中に、辺境伯の報告書が届いたのだ。精霊達はカフカースに対して宮殿諸共領主を処刑した。今度はケルト王国そのものが処分の対象になるのではないかと、貴族達は戦々恐々としていた。
そこで、国王と宰相はアリアを謁見室に呼び、この国の主要な貴族達の前でカフカースの事件の報告を聞いて精霊の真意を聞いてみるというパフォーマンスを催した。
つまり、謁見室の会話は他の貴族達に向けたプロパガンダというわけか。
もし、ケルト王国が本当に敵視されていたなら、私に直接頼めばいいし、敵視されていないなら、私が精霊の弟子である事のお披露目という形にすればいいわけだ。
「でしたら、直接、精霊本人からケルト王国に敵意は無いと言って貰った方が効果があったのでは無いですか?」
「……モリガン様をお迎えするとなると、謁見室では都合が悪い。余は玉座から動けぬからな。モリガン様が来られたら跪けぬ」
「そうですな。アリア嬢から精霊がケルト王国に敵意を向けていないと聞けただけで十分です……」
……モリガンってば、本当に何をやったの?国王も宰相も怯えているじゃん!
「クーパー新子爵とニュートン新男爵の陞爵パーティーは王宮で行う事にする。そうすれば、誰の目から見ても王家が後見している事ががわかるからな」
「そのパーティーには我が辺境伯家も開催資金を拠出しましょう。名目だけとはいえアリアの後見人であるのですから異論は出ないでしょう」
「ならば、我がスペンサー公爵家からも資金を出しましょう。この際ですから派手なパーティーを開催しましょう」
だんだん、大事になってきてる。
父さんや伯父さん達はともかく、母さんは耐えられるだろうか?
「……そこまで大事にしなくても」
「アリア、考えてもみよ。この国……いやこの世界の誰もが精霊様の後見を受けているアリアを自分達の勢力に加えたいと思うだろう。しかし、当のアリアは精霊様達に守られ、どの派閥にも属さないのではないか?」
うーん、それは確かに否定できない。
私は派閥争いどころか、権力や政治に興味はない。お金はあった方が良いとは思うけど、持ちきれないほどの大金は欲しくないし、権力もまた同じだ。
私みたいなあまり欲が無い人間は、権力が欲しい人や大金持ちに憧れる人にはあまり好かれないタイプなんだろうな。
「アリアがどの派閥にも属さないのであれば、次に狙われるのはアリアの親族だ。特に女性の結婚に関しては、親の意見がしめる所が大きいからな。下手をすれば、大貴族が強引に婚約を結ぼうとしてくるかもしれん。その為に陞爵を急いだのだ。そして、派閥争いに巻き込まれない様に王家が後見を買って出たのだ。現在の所、王家が所属するダナーン派が男女共に最大の派閥になっているからな。スペンサー家はケルト南部で最大の貴族だし、ウェズリー家も北部で唯一のダナーン派だからな」
ケルト王国の南部は王国の古参貴族が多く、国王が所属するダナーン派と古参貴族達が所属する門閥貴族派が多い。そして北部は新興貴族が多いせいか中立派が殆どで、ウェズリー家は北部の中で唯一ケルト王国建国からダナーン派に属する貴族で、ダナーン派の中でも発言力が大きい貴族の一人だ。
「本当ならばクーパー家を伯爵位まで押し上げたかったが、流石に二つも爵位を上げる事は余の力でも無理だ。今後はウィリアム本人か息子の活躍に期待するしかないな」
「……必ずや、陛下のご期待に応えて見せます」
国王も無茶振りするなぁ。
何十年前に戦争が終わってからは、陞爵する貴族は殆どいないのに。
「パーティーはいつ頃開催出来るか……。なるべくなら早く開催したいが、失敗しない為には時間が必要か」
「先触れも無い陞爵ですから、準備期間は出来るだけ長くとった方が良いでしょうが、次の冬を逃しますと陞爵からパーティーの開催までの期間が一年以上空いてしまい、ウィリアムやジョンの瑕疵になってしまうでしょう」
「そうだな、次の冬の終わりまでに開催は必須だな。特に両夫人はすぐに王都に呼び寄せなさい。パーティーの開催を取り仕切るのは夫人の役割が大きいが、そんな教育は受けていないだろう」
伯母さんはともかく母さんは元々平民なのだ。
結婚する際に、祖母の実家で教育を受けてはいたが、結婚してから現在に至るまでパーティーを開催した事はない。確かに教育は必要だろう。
父さんは苦い顔をしながら了承した。
母さんは、このプレッシャーに耐えられるだろうか、心配だ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます