2−11 アリアの遊び場
ドゴォォォォォォン!
神霊力の塊は宮殿の地下で爆発した。
まさか黄色眷属が自分もろとも全てを吹き飛ばす様な馬鹿な真似をするとは思わなかった。
私は崩れ落ちる床や壁、そして天井に次々と飛び移りヒョイヒョイっと瓦礫を避けて、再び黄色眷属の前に立ち塞がった。
「貴方を慕ってくれていた者全てを犠牲にして、自分だけ逃げようとしていましたね。この宮殿で働いていた人間は百や千では済まないでしょうに……」
「……有象無象が何匹死んだところで痛くも痒くもないわ!虫ケラの命よりも余が生き残る方が肝要だろうが!」
この黄色眷属は自分が大好きなナルシストだったか。私とは趣味趣向が違いすぎる。道理で私とは言葉が通じないわけだ。
「やるべき事を済ませたら、貴方如きが逃げ帰っても、私は一向に構いませんが」
「やるべき事だと……」
「当然、謝罪と賠償です。私に誠心誠意の土下座をして、もう二度と悪さをしませんと誓約書を提出し、大金貨千枚払えば許してあげなくもないですよ」
「ふざけた事を……、貴様如きに何故許しを請わねばならぬのか!」
黄色眷属はふわりと浮き上がり、この場から逃げ出した。
私は別に追い掛ける事もなく、成り行きを見守っていた。
黄色眷属は猛スピードで飛び去っていくが、途中で何かにぶつかったようだ。
……クリス、いい仕事をしてるなぁ。
私が見ても全く気がつかない防御結界を宮殿の周りに張り巡らせていたのだ。
黄色眷属は風を操りクリスの防御結界を破ろうと努力していたが、防御結界は傷一つ付かなかったみたいで途方にくれているようだ。
『どうですか?気が済みましたか?』
私は大声を張り上げたくなかったので念話術を使って呼びかけてみた。
黄色眷属は諦めたのか私の所まで戻ってきた。……律儀だなぁ。
「……余をどうするつもりだ」
「言ったでしょう。謝罪と賠償ですよ。今なら大金貨千五百枚で許してあげますよ」
「先程の言葉と金額が違うではないか」
「時間経過で賠償金額が跳ね上がるのは当然ではないですか。最初にお金を払っておけば大金貨百枚で済んだのに」
「貴様が何を考えようが余は屈せぬ。貴様の力が余より上であろうとも余には決して死は訪れぬ。貴様が何をしようが我等の同志はまだ何百人もいる。勝ち目はないと思うがいい!」
「これはまたまた良い事を聞きました。私の遊び相手がまだまだたくさん居るって事ですね!」
こいつは朗報だ。黄色眷属一人だと面白くも何ともなかったが数百人もいたらちょっとはスリリングな遊び相手になるだろう。
けれどどうすればいいかな。今回のようにこの世界で戦うとまた犠牲者は増えるだろう。こことは違う空間で戦える場所を創った方がいいかもしれない。
「貴方は出来損ないですが、いい人ですね!お礼に私のプレゼントを受け取ってください!」
私の身体の中で一体化しているお母様からもらった神器『煤竹の笛』を起動したみる。
この世界に笙のような音色が鳴り響き、膨大な神霊力が流れ込んでいく。
考えてみたら私が意識的に『煤竹の笛』を使ったのは初めてだったかもしれない。今までは、ちょっとした小物や魔物退治の時に創った石礫くらいで無意識に起動していたのだ。
しかし今回は違う。ケルト王国の上空に空間の歪みを創り出し亜空間とも呼べる空間を創造するのだ。
「……な……なんだこの膨大な神霊力は……」
黄色眷属は私が放つ神霊力に呆然としていた。
「貴様の魂は一体何なんだ!普通の精霊でも、ましてや原初の精霊とも違う……」
そこまで判っているのに、なんで正解に辿り着かないのかなぁ。
まあいいや、今は作業を続けようっと。
大きさはどれくらいでいいかな?とりあえずはケルト王国がスッポリと入る位でいいか。この空間はメチャクチャに頑丈にしておこう。その方が気兼ねなく遊べるしね。
よしっ!出来たーっと。名前は
もう一度創るかは微妙だけど、一応『叡智の書』に登録しておこうっと。
私は黄色眷属と共に闘技場の中に転移した。
うーん、中は伽藍とした空間だねー。
精霊の眷属なら必要ないかもしれないけど、一応地面も創っておこう。
「ここは……」
「ここは私の遊び場であり、貴方の新しい住処でもある空間。その名も
この空間ならば、私が全力を出しても壊れないし、周りに迷惑も掛けない。なんて素敵な空間なんだろう。……今は、ちょっとばかし殺風景だけど。
「さあ、黄色眷属さん。ここでなら思う存分、やりたい放題何でも出来ますよ。ついでに私のストレス発散にも付き合ってください。大丈夫、貴方は原初の精霊の眷属ですから、いくらやっても死なないのですよね」
「き……貴様は一体……」
「もう何度も何度も何なんですか!……あっ、そういえば自己紹介まだでしたっけ、ごめんなさい。お詫びに貴方には、ほんのちょっとだけ本気になった私と遊ぶ権利を差し上げます」
私は、今まで身体の内に隠していた神霊力を解放し、出来たばかりのこの世界を私の神霊力で染め上げていく。普通なら見えないはずの神霊力も、ここまで濃度を高めると光り輝き、まるで私に後光が差したような光景に見える。
「申し遅れましたね。私はフーシとナクロールの娘、アリアです。初めましてはちょっと変ですが、以後お見知り置きを」
「……は……破壊神の……娘……」
「さあ、自己紹介が済みましたから、思う存分とことん楽しみましょう!」
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