1−5 特別な解決策

「えっ、特別って?特別になれば今言った問題が解決できちゃうの?」

「そうですね。ある意味、姫様だから出来る解決策があります」


 私だから出来る方法?


「行動の制限、貴族任命の拒否、結婚の自由。この全てはこの国の王が命令した場合、国民は拒否する事はできません」


 クリスの言う通り、私はケルト王国の国民で、ケルト王国の貴族の娘だ。国王どころかウェズリー領主に命令されても拒否できる権利すら持たない。


「命令を拒否したい場合は、反乱を起こして自らが国王となるか、姫様が国王よりも上の立場になる必要があります」


 ……反乱って、そんなめんどうで怖い事なんてしないよっ!


「反乱はともかく……、国王より上って……まさか、クリスは私に神様に戻れっていうの?」


 まだ、お姉様から頼まれた仕事も終わってないし、もうちょっと人間生活を楽しみたい。……そして何より、私は答えをまだ見つけていないのだ。


「違います。姫様がその立場にならなくても、もう既に国王よりも上の立場にいる者と姫様は出会っているではないですか」


 えっ!私が何時そんな偉い人と知り合ったの?


「……あっ!もしかしてクリス?クリスは原初の精霊だし!」

「違います。私の身分は過去から現在に至るまで姫様より下の身分です。私の立場が未来永劫変わる事はないでしょう。ですが、当たらずとも遠からずですね。私ではなく、この箱庭を管理している精霊達に姫様の後見をしてもらうのです」


 この世界を管理している精霊は、人間にとっては神様の代行者であり信仰の対象になっている。

 精霊を信仰することは、箱庭の南側にあるクン・ヤン教国以外では一般的で、オウルニィにも礼拝所が建てられていて、精霊像が祀られている。

 そして、精霊は世界各地で人間の前に度々現れていて、精霊が実在すると言うのは一般常識化している。


「魔術師学校に入学する際、貴族が後見人となって魔術師をサポートすると先程旦那様が話しておられました。ならば、姫様の後見人が別に精霊でも問題ないはずです」

「精霊達が後見人になったって、そう簡単にいくかな?」

「被後見人の立場は後見人のステータスによって左右されます。後見人が富豪なら富豪の下に、貴族なら後見人の爵位の下に、国王なら王族の下に。そして精霊なら神の代行者の下に……」

「そんな立場になったら、『聖者』とか『聖女』とか言われて閉じ込めようとしてくるんじゃない?」

「もしそうなったら、神霊術を使って出ていけばいいじゃないですか」

「そんな事したら、今度は世界の反逆者とか言われて指名手配されそう……」


 そうなったら私はともかく、両親や伯父さん達に申し訳ない。娘を溺愛している父さんがこの世を儚んで自殺してしまうかもしれない……。


「そこまで言われたら、国ごと滅ぼせば良いではないですか。私はもちろん精霊達も一緒に潰してくれますよ」


 私の周りは過激派しかいないのか……。私がしっかりしないと、本当にこの人達は本当にやりかねないよ!


「だから、『特別』になる必要があるのです。要は姫様に手を出したらどうなるかがわかっていれば、相手は自ずと遠ざかっていくでしょう」

「……そこまで過激なことにならなくても良いのだけど。私が言う『普通』が望めない以上、何処かで妥協するしかないのかな?」


 果たしてこれは妥協なのか?首を傾げるしかないが、他に妙案も思いつかない。


「……しかし、必要とはいえ木っ葉な精霊の奴らに姫様の後見を任す事になるとは。仕方ないとはいえはらわたが煮え繰り返る思いですよ。もしアイツら、姫様に粗相をしようものなら八つ裂きの上で晒し首にしてやる……」


 ……クリス。それは私を心配しての発言ですよね?けして嫉妬から出た言葉ではないですよね?


「でも、精霊達を後見人にするって言っても、そもそも精霊達は普段は引きこもっていて人間達と全く接点なんてないじゃない?」

「その通りです。なのでまずは精霊と姫様が出会うというシーンを作らねばなりません」


 精霊達は普段は人間の前に姿を見せない。

 ただ単に人間に興味が無いだけだが、たまにチラッと精霊が目撃されるともの凄いニュースになって、何度か歴史書に記載されている。

 『ケルト王国史』という、現在も加筆されている歴史書には今までに何十回か精霊が登場している。……多分、何回かはフィクションだと思うけど。

 特に一番フィクションだと個人的に思っているのは、『建国の際、初代国王に精霊が祝福を与えた』という記述だ。

 多分、祝福を与えたと思われる場所は王宮がある王都ティル・ナ・ノーグだと思うけど、あそこを管理している精霊はモリガンだ。

 モリガンは、とっても……イイ性格をしているので、国王とはいえ人間に祝福を与えるなんて想像できない。……国王を跪かせて靴を舐めさせるシーンなら容易に想像できるけどね。


「……ダグザやルーなら協力してくれると思うけど、モリガンは協力してくれないと思うよ。あのモリガンが人間の前に現れるなんて想像できないもん」

「……姫様が可愛く頼めばどの精霊も快く引き受けますよ。……けど、絶対にしないでくださいね」


 確かに、私がお願いすると言う事は命令しているのと変わらない。クリスの言う通り私が自重しないといけないな。


「まあ、このオウルニィはダグザの管理地ですから、ダグザで妥協しましょう」


 そうして私達は、私と精霊の出会いのシーンを企画立案してその内容をクリスからダグザ、そしてこの異界にいる全ての精霊に伝えてもらう様にした。

 決行の日を五日後にして、その準備の為にクリスは屋敷から文字通り飛び出していった。


 ……クリスの小鳥姿、久しぶりに見たなぁ。

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