0−7 決意 1
今日の夕食は、お姉様がお仕事の都合で欠席していた。最近はお忙しいのかご自分の離宮……アシハラに引き籠もっていて、なかなかお姉様とゆっくりとお話しできなかった。……べっ、別に寂しくなんかないんだからねっ!
夕食後のお茶の時間に、私はここ最近疑問に思っていたことを両親に相談してみる事にした。
「お父様、私、タカアマハラに来て百年ほど経過しましたが、身体が全然大きくならないのです。何かの病気でしょうか?」
「ふむ、百年程度では何も変わらぬな。其方は先に人間であった為に身体つきはその姿になったが、本来ならつかまり立ちが出来るようになる時期ではないだろうか」
「そうですね。フリンが貴方位の身体つきになるのに二千年以上はかかったのではないかしら。昔の事すぎてあまり覚えていないけれど……」
神様感覚だと、百年で数日感覚なのか。でも、お父様もお母様も見た目が若々しいから、身体の成長はある程度で止まるのかもしれない。
「貴方は元人間だったせいか、成長が早すぎるのです。本来なら神霊力の制御も、神霊術の学習も何百年とかかるものなのですよ。親としては子供の成長は嬉しくもあるのですが、貴方の成長は早過ぎて寂しく感じます。もっとのんびりしてもいいのよ」
……私は声を大にして言いたいっ!お姉様がスパルタすぎるせいですよっ!
「申し上げます。フリン姫様が入室許可を求めております」
お姉様は成人して自身の離宮であるアシハラに移り住んでいるので、家族といえど本館の部屋に勝手に入れず、許可が必要となる。
そして、お父様の許可を経てお姉様が部屋に入って来た。
「陛下、異界に不穏な動きがあります」
お姉様はお父様のことを陛下と呼んだ。つまり、お仕事の話だろう。私が席を外そうとした時、お姉様は手を上げて制し席に着くように促した。
「フリン。ここでしていい話なのか?」
お父様は私の方を見ながらそう言った。私は子供……正確には赤ん坊と見做されていて両親と一緒に本館で暮らしている。
私に政治の話をして良いのか迷っているのだろう。
「私はアリアにも、この話を聞いて欲しいと思います」
お姉様はお茶を淹れてもらえるよう頼み、席に着いた。
「それは何故だ?アリアはまだ子供だぞ」
「確かにアリアは子供ですが、神霊術を使いこなし一人前以上の能力があります。それに今回の件、異界にいる精霊達では手に負えない可能性があります」
お父様は憮然とした態度で腕を組みながら、お姉様に対して一喝した。
「其方はアリアに異界に行けと申すつもりか。それは親として許可はできぬ!」
「あのっ、先程から口にされている異界とは何なのでしょうか?もしかして、異世界とか異次元とかあったりするのですか?」
フリンは小さい子を見るような目でこう述べた。
「アリアの言う異世界っていうのは、多分別の物質界だったり、同じ物質界の違う世界のことだと思うよ。異界は精霊界の外にある私達が作ったものとは違う世界だから」
お父様が支配しているこの宇宙の中に精霊界は存在し、そして精霊界の中に物質界が存在している。しかし、精霊界はまだ宇宙全体まで広がっておらず、宇宙の半分以上が手付かずの状態だ。精霊界の外側は様々なエネルギーが吹き荒れる過酷な場所なのだそうだ。
「アリア、精霊界って誰が造ったと思う?」
「それは、お母様がお造りになられたと教わりましたけど」
「半分正解で、半分不正解。正確には、お母様と原初の精霊がこの精霊界を造ったの」
「……原初の精霊?初めて聞く言葉です」
「……そうね。ちょっと理由があってね」
お母様が少し悲しそうな表情を浮かべた。
「……原初の精霊とは、私が最初に創り出した精霊達です。いえ、只の精霊ではなく神霊力を持ち、私の権能である『創造』の一部が使える、私の弟妹とも言える精霊達です」
「お母様と原初の精霊達は、最初期の精霊界とタカアマハラの礎を創り上げたのよ」
最初期の精霊界は今よりもずっと狭くて、気候も安定していなかった。タカアマハラも礎はあれど結界がまだ完成していなくて、とても不安定な世界だったという。
しかし不安定ながらも精霊界が出来たおかげで宇宙からのエネルギー嵐から身を守られるようになった。そこでお母様は、原初の精霊より力の小さな精霊をたくさん創り出し精霊界を徐々に拡大していったのだ。
精霊界の開拓がひと段落した頃、原初の精霊達の大多数が突然行方不明になった。当初はそれ程問題視されていなかったが、何千何万年経っても原初の精霊達が帰還しない事に、精霊達が動揺し始めた。そこでお姉様が調査に乗り出したところ、宇宙の片隅で精霊界とは別の世界を創り自らを創造主と呼称し、勝手に眷属を増やして好き勝手やっている事が判明したのだった。
当初、お母様が原初の精霊達に説得を試みたが、自らの力に驕れる精霊達はお父様に反旗を翻し、精霊界とタカアマハラに対し侵略を試みようとしていた。
その報告を受けたお父様は激怒し、原初の精霊が創り出した世界に強力無比な神霊術をぶつけ粉微塵にしてしまった。
……お父様、マジブチ切れじゃないですか!
しかし、原初の精霊はお母様に近い存在。つまり、神と同じく死を超越していたのだった。そこでやも得ず原初の精霊達を星の中心に封印し、その封印の礎がある場所に箱庭を創り、お父様への忠誠心が高い精霊達を派遣し封印を監視するように命じた。
その原初の精霊達が封印された世界の事を、異界と呼ぶようになったのである。
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