僕の物語

@nonoharupapa

僕の物語は始まる

僕が目を覚ますと、それがわかっていたかのように、眼の前で一人の人間が跪いていた。


「お待ちしていました。救世主様」

僕は少なくてもこんなところで寝ていた記憶はないし、救世主と呼ばれたこともない。


だから僕はもちろん混乱した。それも激しく。

人は極度に混乱すると声すら出ないものだ。

ただただ僕に出来るのは起き上がって周りを見ることだけだった。


向かいには2本の小さな蝋燭立てにそれぞれ3本の蝋燭で照らされた白い壁があった。

その蝋燭の炎は揺らめきもせず、まっすぐに伸び、周囲を照らしている。

いくぶん乾燥した空気が、その小さな炎の熱によってほんの僅かに動かされていた。


左右の壁も同様だった。

2本の小さな蝋燭立てと3つの蝋燭と白い壁。

あまり大きくない正方形のような部屋の中にいるようだったが、壁側にしか光がないため、部屋の中央だけが暗い。

天井は明かりがないためか、見えなかった。


救世主様、と再び声が聞こえる。

その低い声からすると、男のようだった。

深くフードを被り、顔は見えない。何かしら隠したい理由があるのだろう、と僕は思った。


「救世主様、事態を飲み込めていないことは存じておりますゆえ、これから説明致しますのでどうぞ」

その男は立ち上がり、くるりと向きを変えると壁の側まで歩いた。


その歩き方は、どことなく奇妙だった。

はっきりとは言えないのだが、まるで月面の上を歩く宇宙飛行士のように、スローモーなように感じた。

さらに奇妙だったのは、男が手をかざすと突然壁に出入り口が出てきたことだ。


男はそのドアの横に立ち、手でどうぞの合図を出す。

僕はしかたなくドアを開く。

この状況で他に何が出来よう?

こうして僕の物語は始まる。

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