最強執事と第三皇女~異世界だと思っていた世界は、実はゲームの世界だった~

シン

第1話 皇女と俺の日常

「どうぞ、姫様、紅茶をご用意いたしました」


「ありがとう、シンあなたの紅茶はおいしいわ」


「もったいないお言葉」


 このお方が、異世界人である俺が仕えている主、ベルファルス帝国の第三皇女、アナスタシア・エルメス・ベルファルス様だ。彼女は銀髪のロングヘアーに水色の瞳、そして華奢な体を持つ。俺はこの人を守りたいと思った。


 しかし俺には3つの顔がある。


 1つ目は執事としての顔だ。


 俺の朝は早い。朝起きて執事服に着替え、朝食の準備を始めると、俺の仕事が始まる。まずはアナスタシア様の一日のスケジュールを確認し、それを頭に叩き込む。そして厨房に向かいアナスタシア様の朝食を作る。本来であれば料理人の仕事だが、どうやら俺の料理がお気に召すようで、俺が作ることになった。今日の朝食は、ベーコンとマヨネーズを使った惣菜パンと、クイックバードの卵を使った惣菜パンの二種類だ。さらに、クイックバードの胸肉とアルマスの葉のサラダに、コンソメスープを用意した。クイックバードはBランクの魔物で、白い羽根と驚異的な速さが特徴だ。アルマスはレタスのような見た目の植物で、ちなみにコンソメとマヨネーズは俺のお手製だ。俺は配膳を終え、朝食の用意が整った。


「朝食の用意ができた。エルザ、姫様を起こしに行ってくれ」


「わかりました」

 

 料理ができ朝食の用意ができると、アナスタシア仕えの黒髪ショートヘアーで黒い瞳のメイドのエルザにアナスタシア様を起こしに向かうように伝えた。


 エルザはアナスタシアの部屋をノックして入ると、ベッドに近づいた。


 「姫様、朝食のお時間です。起床してください」

 

 「ん~おはようエルザ」


 「おはようございます。姫様」

 

 アナスタシアは眠そうに、起きるとドレッサーの前に座り髪を整え始めた。しばらくが経ちドレス姿に着替え終えた、アナスタシアは自室から出てきた。


 「おはようございます。姫様」


 「おはよう、シン」


 アナスタシアは笑顔でそう言って歩き出した。


 (笑顔がかわいい)

 

 俺はそんなことを思いながら、アナスタシア様のあとに控えて後に付いていく、ダイニングテーブルに着き朝食が始まると、アナスタシア様は不服そうな顔をしながら後ろに控えている俺に言った。


 「一人で食事だと楽しくないわ、シンも一緒に食べましょう」


 「恐れ入りますが、すでに朝食は終えております」


 「では、昼食は私とシンとエルザの三人で一緒に食べましょう、それなら良いでしょう」


 「では、そのように」


 「うん」


 という一連の会話が、いつもの流れだ。アナスタシア様の食事が終わると、俺はアナスタシア様の今日の予定について話し始めた。


 「午前中は勉学に励んでいただきます。そのあと午後からは何を致しますか?」


 「学園の入学が近いから、その勉強をした後、弓の練習がしたいです」


 「わかりましたそのように手配します」


 アナスタシアは席を立つとエルザと共に部屋を後にした。


 俺は一人で食器を片付け始める、本来であれば皇族には複数のメイドがいる、しかしアナスタシア様には俺とエルザの二人だけだ、なぜならアナスタシア様は魔法が使えない為、他の貴族からよく思われていなかった。その為、何度か命を狙われた為にあえて皇帝陛下が信用できる俺とエルザの二人が仕えることになった。

 俺がアナスタシア様に仕えている理由は他にもあるがその1つは、アナスタシア様が魔法を使えない事に関係している。アナスタシア様が魔法を使えないのは魔法を使う為の魔法回路がないのだ。

 

 魔法回路とは魔法を使うために必要な器官であり、脳と魔力を貯める器官である、魔力の器を繋ぐために必要な器官であり、魔法の出力をするための器官でもある。重要な器官だ。しかしアナスタシア様には生まれつき魔法回路がない、本来であれば魔法を使えないだけで終わるのだが、アナスタシア様の魔力は魔力濃度が高く、魔力量も多い為、魔力の器が耐えきれずに魔力が熱となって体の外に出るため高熱を出してしまう。その為に魔力の器から、魔力を直接抜く事ができる、俺が仕えているのだ。

 

 俺は食器を片付けが終わると、アナスタシア様が使う室内の掃除(アナスタシア様の自室以外)と食料庫から食材の仕入れをする、なお毒物が入って居ないかの鑑定は忘れずにする。その後お昼のメニューを考えて思いつくと、俺は昼食を作り始める。


 「今日は何にするか……。よし、アレにしよう」

 

 俺はそう言うと丸いパンを釜で焼き始めた。その隣でひき肉、卵、パン粉に塩、胡椒を混ぜてこねると、楕円に薄く丸めると、それを焼きパティを作った。そして釜で焼いた丸いパンを横半分に切り、そこにアルマスの葉とパティを乗せ、そこにアイテムボックスから出した、日本から持ってきたスライスチーズを乗せてもう半分のパンを乗せると。


 「よし、ハンバーガーの完成だ」

 

 俺はできたハンバーガーと用意していた果実水をバケットに入れると、それをアイテムボックスに入れた。そしてアナスタシア様が勉学をしている講義の部屋にノックをして入ると、丁度お昼を告げる鐘の音がなった。


 「今日はここまでにしましょう」


 「ええエルザ、また午後にしましょう」

 

 アナスタシアはそう言うと丁度、部屋に入ってきた、シンの方を嬉しそうに向いた。


 「シン、エルザ、今日は天気もいいし外のテラスで食べましょう」

 

 「「はい、よろこんで」」

 

 シンとエルザはそう言うと、三人でテラスへ向かった。テラスの椅子に三人は座ると、シンはアイテムボックスからバケットを取り出し机の上に置いた。


 「今日は何かしら」

 

 アナスタシアは楽しそうに、そう言うと、シンはバケットを開いた。


 「今日はハンバーガーと果実水です」


 「美味しそうですね」


 そう言って、アナスタシアはハンバーガーを手に取った、シンとエルザもハンバーガーを手に取り食べ始めた。


「今日は何を勉強なされたのですか?」


 俺はアナスタシア様に丁寧に尋ねた。その瞬間、彼女の目が輝いた。


「300年前の剣聖についての話をしたの」


「剣聖ですか?」


 俺は聞き返した。アナスタシア様の口元が微かに緩む。


「そう、剣聖。多数の魔物を退けたり、仲の悪かったラタトス王国との間を取り持ったりして、多数の功績を認められたのよ。それでベルファルス帝国とラタトス王国の両国から名誉侯爵の地位が与えられたの。ね、エルザ?」


「はい、姫様。その通りです。通常、複数の国から爵位をもらうことはありません。しかし剣聖様は魔物を退けたり、国同士の間を取り持つことはしても、国同士の争い事には参加しませんその為、両国から名誉侯爵の地位が与えられることになりました。」


 「なるほどそうなんですね。勉強になりました」

 アナスタシア様が考え込んだ。そして俺は自慢げに答え始めた。

 

 「なるほどでしたら、私は剣聖の裏話をしましょう」


 「裏話ですか。気になります」

 

 アナスタシア様は興味津々に、俺に聞き返した。


 「まず、先程のエルザの話ですが。剣聖は国に属するつもりはなく、両国から属さなくていいから、と言われ仕方なく爵位を受け取ったらしいですよ」

 

 「なるほどそうなんですね。」

 

 「なるほどそんな話は初めて聞きました」

 

 エルザは興味深そうに考え込んだ。


 「どこの情報なのですか?」


 エルザが俺に不思議そうに聞いてきた、すると俺は笑顔で答えた。

 

 「本人から直接聞きました。」


 一瞬、その場が静まり返った。


 「「本人からですか」」


 アナスタシアとエルザは驚きのあまり、聞き返した。しかしシンは何事もないように話し始めた。


 「はい、彼女から。良かったら会いますか?」


 「ご存命なのですか」

 アナスタシア様は更に驚いた。一方でエルザは考え込みながら何かブツブツ言い始めた。

 

 「会いたいです」

 

 「ではそのように、彼女に伝えましょう」

 

 三人はそんな楽しい昼食をしていた。


 「そろそろ戻りましょうか」


 アナスタシア様がそう言うと、俺は申し訳無さそうに話を切り出した。


 「今日は午後からお暇をもらってもよいでしょうか。夕食はエルザが作りますので」


 「はい、大丈夫ですよ。毎年同じ日付に午後から休みをもらっているのですから」「さすがに5年も一緒にいればわかりますよ」


 アナスタシア様は問題なさそうに答えた。俺は丁寧にお辞儀をして謝罪した。

 

 「申し訳ありません。日課の魔力徴収は0時を回ってからでもよいでしょうか」


「はい、問題ありませんよ。本当に苦労をかけてすみません」


 アナスタシア様は申し訳なさそうに、俺にそう言った。その瞳には、少しの戸惑いと深い感謝の色が浮かんでいる。


「そんな事はありません。姫様は私が心から愛し、守るべき大切なお方ですから」


 俺は笑顔で答えると、アナスタシア様はほっとしたようにクスッと笑った。その微笑みは、何よりも俺の胸を温かくする。


「もう、シンは本当に優しいのね……」


 その言葉に、俺は照れくさそうに頭を掻く。エルザが気を利かせて口を開く。


「では後は私が引き受けます」


 エルザの言葉に従い、俺は後片付けを始めた。やがて片付けが終わり、自室に戻ると、心の中には充実感があった。


 自室に戻るなり、俺は小さく息をついてから、静かに言い放つ。


「箱庭世界」

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