感動
《side:ユウマ》
大歓声が会場を揺らす。その中で、俺はしばらく息を呑んだまま立ち尽くしていた。
勝者は、ヴェイルとレン。
まさか、あれほどの激しいレースで一位になれるなど思ってもいなかった。
シャムシェには、ヴェイルはそれだけのポテンシャルを持っているということは聞いて、知っていた。
だけど、それを実際に目の前で見るのとは違う。
途中の黒竜との戦い。そして、最後の小型竜とのゴール争い。
全てが見ていてドキドキさせられた。
そして、魔法掲示板に二人の名前が大きく刻まれ、銀灰色の竜とその背に乗る少年の姿が、幾つもの魔法モニターに映し出されている。
広場は熱狂の渦に包まれ、観客席では大人も子供も、誰もが声を限りに叫んでいた。
「ユウマ様、ヴェイルが一番だ!」
「レン、すごいぞ!」
「こんなレース、初めて見た!」
俺は拳をぎゅっと握りしめたまま、レースの余韻に浸っていた。
今も目の裏に焼き付いている。
最後の空中リング、ヴェイルの銀翼が光のようにきらめき、ソラレーンの青い閃光とほぼ同時にゴールを駆け抜けたあの瞬間。
僅かにヴェイルの鼻先が前に出ていた。
その一瞬のために、二人が積み重ねてきた訓練、恐怖と苦難、すべての努力が報われた。
レンの必死な叫び、ヴェイルの限界を超える滑空。
何度も落ちて、痛みを知り、空を怖がりながらも、それでも翼を広げてきた日々。
拍手が鳴り止まない中、俺は人混みをかき分けてゴールエリアへ走った。
ゴールラインの向こうで、レンはヴェイルの首にしがみついて泣いている。
ヴェイルも、誇らしげに空へと咆哮を上げていた。
「レン、ヴェイル、おめでとう。本当に、よくやったな」
思わず、言葉が震える。
俺の背後で子供たちが駆け寄り、ヴェイルに旗を振っている。
老人たちも目を細めてうなずき、牧場仲間たちが「これぞユウマ牧場だ!」と肩を叩き合っていた。
その光景に、胸が熱くなる。
思い返せば、この一年は試練の連続だった。
孵化したばかりの小さなヴェイル、初めての空への挑戦、ワイバーンとの遭遇、傷を負い、再び翼をつなぐための手術とリハビリ。
あのとき、絶望しそうなレンとヴェイルの姿が、今も脳裏に浮かぶ。
けれど、彼らは負けなかった。
家族として、仲間として、信じ合い、支え合ってきた。
それが今日、こうして勝者という形になった。
「ヴェイル、よくやったな。お前は、立派な飛竜だよ」
俺はその首に手を置き、ぐっと涙をこらえた。
「ありがとう、レン。お前がいたから、ヴェイルはここまで来れたんだ。お前はもう立派なドラゴンライダーだ」
レンは泣きながら、精一杯の笑顔で「ユウマ様、僕、やりました!」と叫ぶ。
俺も、こみ上げるものを抑えきれなかった。
そこにシャムシェが歩いてきた。
彼女はいつものようににやりと笑って、俺の肩をポンと叩く。
「やったな、ユウマ。あんたの牧場が、一番だよ。ヴェイルもレンも、本当に誇りに思っていい。お前が彼らに与えたものは、どんな勝利より大きいさ」
「……ありがとう、シャムシェ。本当に、全部君のおかげだよ。君がいなければ、ここまで来れなかった」
「ふふん、ちょっとは役に立てたなら嬉しいね。でもさ、最初から見てたけど、レンもヴェイルも、そしてお前も、みんな強くなった」
シャムシェの目も、いつになく優しかった。
「だけど、これは新人レースだ。始まりのレースに過ぎない」
「ああ、こんな感動するのが当たり前じゃないんだよな?」
「当たり前だろ。これからはあんたは竜人たちと争うことになるんだ。今日のようにギリギリじゃこれからは厳しいからね。もっと訓練が必要だよ」
人々は、ヴェイルの姿を讃え、レンの名を呼ぶ。
魔法モニターには、最後の激闘が何度もリプレイされ、銀翼の飛竜と少年の絆が、村中の子供たちの夢になっていた。
会場の片隅では、ソラレーンとエルナも静かに祝福を送ってくれている。
俺は誇らしさと幸福感でいっぱいだった。
今日という日は、きっと一生忘れない。
ヴェイルとレン、そして家族のみんな。
お前たちがいてくれるから、俺はこの牧場を誇れる。
「さあ、帰ろう。今日はご馳走だ。みんなで、この勝利を祝おう!」
俺は大きく手を広げて、家族を迎える。
銀灰の翼が夕陽の中できらめき、村の空に誇り高く舞い上がる。
ドラゴンレース。
それは勝つこと以上に、家族の絆と誇りを証明する日となった。
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