美装変化:フリルドレス
この氷にこの雪……間違いない、前闘った凍結のフェイスレスが使ってたのと同じ物じゃね?
触れた物を凍らせ、氷で作った盾を空中に浮かせている。
しずくねぇの四方を囲うように盾を展開させ、さらにその下には雪のクッションが敷き詰められてしずくねぇを守ってる。
つーかよぉ、氷を扱うせいか少し肌寒いんだけど。
何で和服の、着物ドレスがミニスカみたいになってんだよ。
冷気を扱うなら温かい格好させろって……いや待て、あまりにもスースーしすぎじゃね?
「ヴァルガニカ、めっちゃスースーするんだけど」
ちょっと待って……これ……おい……まさか、これって!
「着替えを行いましたので、登録されている衣装以外は破棄されます。下着は登録されていませんでしたので、マスターは今ノーパンです」
やっぱり履いてない!!
「こんなミニスカートでノーパンってふざけんな!!」
可愛い服なのは認めるけどさ!
可愛い服好きだし嬉しいけどさ!
男のノーパンって何だよ、えぇ!?
誰が得すんだよこれぇ!!
「次回は下着も登録しておきます」
「今すぐに下着も登録しとけ……くっそ」
幸いにもここには俺とアイツしか……いやしずくねぇ後ろに居るぅ!
しかも丈が短いから少しでも足を高くうごかせば……うぅ、見られちまう。
「ヴァルガニカ、できるだけ飛んだり蹴りはその……見えちゃうから」
「あの炎が通常の炎ならそれでも良いですが、アレは質量を持つ特殊な炎です。腕の力だけでは押し負ける可能性があり、その場合、戦闘の長期化、最悪の場合は顔に傷を負うことになります」
こ、この見えちゃう羞恥プレイに耐えろと!?
そんな性癖ないっての!
でも……死ぬより、顔に火傷痕作られるよりはいい!
「わかった! さっさと終わらせるぞ!」
「はい、マスター」
氷で作ったグローブでフェイスレスを殴ると、炎の体で氷が溶けていく。
お互いの力は拮抗しているが、こちらの氷は完全に相手に届かず、ある程度近付くと溶けて水になり、蒸発する。
それでも殴っている物理的なダメージは入ってるんだろうけど……これじゃ時間がかかりすぎる。
「このままだとゆいが来るぞ! さっさと終わらせろ!」
「考えがあります、その為にはマスターの協力が必要です」
「俺の……協力?」
オートバトルなのに、俺の協力って?
炎を纏ったコンクリートが飛んでくる。
氷の盾でガードをするが、全ては防げず、蹴りで弾く。
蹴る瞬間、着物ドレスの丈部分がフワッとして……中が……。
冷たい空気の中、俺は顔を真っ赤にしながらドレスを抑え、おそるおそる後ろを見た。
「……見てないから、大丈夫」
……あー……死にたい。
しずくねぇ笑ってるし……罪悪。
……もーー!
本当に……最悪だッ!
「い、いますぐ殺せ! 協力でも何でもするから!」
「ではあのフェイスレス、紅蓮のフェイスレスの炎に負けないような氷をイメージして下さい。私がそれを作り出し、アイツにぶつけます」
イメージって言っても……そんな急に。
氷……氷……。
氷をイメージするんだ……俺!
「マスター……かき氷をイメージされましても……」
「うるさい! なっていきなり氷って言われたらこれぐらいしか……」
グダグダやりすぎた。
やばい、時間が来てしまった。
校門に立つ一人の少女には見覚えがある。
頭にピンクの髪飾り、ピンクの手袋に白いブーツ。
変身しているが、あの制服は……。
「愛と正義と魔法の美少女、パシフィカ! 華麗に参上!」
妹が到着してしまった。
「行くよ、パシフィカ!」
白とピンクの杖をどこからか取り出し、くるくると回し始めた。
「私の地域で暴れるなんて……よりによっておにぃの学校でなんて、許せない!」
妹が来る前に終わらせないと!
氷……氷……!
『見てみておにぃ! 南極のペンギン特集だって!』
そういや南極って氷の大地が広がってたな。
氷の大地?
これだ!
「氷塊のイメージを確認、製氷までの三十秒間はオートバトルモードからマニュアルバトルモードに移行します」
マニュアルって……へ?
お、オートバトルモードは!?
「三十秒間だけ耐えて下さい、ご武運を」
え、いやちょっと!?
身体から出ていた冷気は消え、輝いていたフリルドレス? からは輝きが失われている。
燃えるチャイナドレスを着たフェイスレスはこっちを見ている。
まただ、また目なんて無いのに、俺の目を見ているとはっきり分かる。
「そんなに見つめんなっての、照れるだろ」
「ていやーッ!」
空から流れ星が三つ降ってくる。
俺の体と同じぐらいありそうなそれらはフェイスレスに向かっていくが、一つは躱され、二つは炎が鎧のようになってフェイスレスを守った。
炎の鎧に当たった流れ星はガラスの割れるような音を立てて消え、フェイスレスは後方に飛ばされた。
物理ダメージはやっぱり入ってる!
「そこの人大丈夫ですか!?」
俺の前に妹が杖を持って立っている。
見慣れた、学校の制服の妹だ。
「あれ、ゆいゆいさんじゃないですか! 服装が違うから別の人かと思いましたけど……可愛い服ですね!」
「あ、ありがと」
っべーって! ヤバイヤバイヤバイ!
「ガールズトークは後にしましょ、あのフェイスレスはかなり強いですから三人で倒しましょう」
「三人?」
「プラトニックさんって人もここのエリアの担当なので、ここまで大事になれば来ると思います! だから、それまで時間を稼ぎつつ」
巨大な炎がゆいに向かって飛んでいく。
俺が守るんだ、守らなきゃ。
「行くぞフリルドレス!」
使い方なんて分からない。
だけど、氷の盾に守られたしずくねぇも、妹も危険に巻き込みたくない。
動け、フリルドレス!
がむしゃらに念じ、手を動かしていると袖から……いや全身から冷気が吹き出し、両足が氷を纏う。
習った訳じゃない。
マニュアルを見た訳でも、ヴァルガニカから説明された訳でもない。
想いが、届いた!
「返してやるよクソッタレ!!」
妹を守りたい。
この思いを込めて炎を蹴り返す。
重い。
ずっしりと鉛を蹴っているみたいで、発する炎は氷を溶かしにかかってくる。
「負けられねぇんだっての!」
どれだけ力を込めても押し返せそうにない。
クソが……クソが!
「お願いパシフィカ! ゆいゆいさんを助けて!」
妹の杖から光が流れてくる。
光は俺の体を包み……。
「基礎パーツ、パシフィカを認識。ハイパーマニュアルモードに移行します」
さっきまで蹴り飛ばせなかった炎を凍らせ、フェイスレスに叩き返してやった。
「すごいです!」
「よ、余裕かな、あはは」
「ハイパーマニュアルモード終了。ハイパーオートバトルモードに移行しました。マスター、製氷が終わりました、ご指示を」
あの蹴り一撃じゃフェイスレスは倒れなかった。
それでも氷で動きが少し鈍ってる。
「でかいのをぶつけてやれ!」
「了解しました。氷塊の落下まで三秒前」
これで勝てる。
「サン」
空が歪み、歪な空間から巨大な氷柱が現れた。
「な、何ですかあれ」
「お……わ、私が作った。あれをフェイスレスにぶつけてしまえば絶対に倒せる」
「二イ」
どんどんと氷柱が増えて……まてよ。
「これ……ちょっと量多すぎないですか」
「いや、だ、大丈夫だよ」
「イチ」
巨大な氷柱は合計十六本になり、フェイスレスに襲いかかる。
だけど、あまりにも大きすぎる!
このままじゃ妹も巻き込む事になる。
「ゼロ」
「嫌……おにぃ……おにぃ!!」
「ゆい!」
氷柱がフェイスレスを刺す。
炎で溶けた氷は水となり、炎を沈め、また新たな氷柱が体を刺す。
そうして炎が消え、ついに体は氷柱に貫かれた。
「ったく、派手にやりすぎだっての」
俺と妹の頭上に黒い布が舞う。
布は氷柱を受け止め、弾く。
「ちょっと量を考えろこのバカ!」
「痛ッ!」
燕尾服が、いや胸の所は直ってないぐらいボロボロのしずくねぇが守ってくれた。
「無事か、二人共」
「ありがとうございました、プラトニックさん」
「ああ、ゆいゆいはどうだ?」
「大丈夫だ……それより」
俺が出した氷柱で妹を傷つけそうになった。
この事実が耐えられなかった。
「ほら、よくやったな」
「ほぇ」
顔に柔らかい感覚。
左右の頬から感じるこの暖かさ。
「こ、これって」
「こら動くなバカ」
俺は今、しずくねぇの胸に顔を埋めている。
嬉しいはずなのに、気が動転してなにがなんだか分からない。
「触らせんのは恥ずかしいし……今はダメ。コレで我慢しとけ」
「むぐ! むぐむぐむぐ! (いや呼吸、呼吸できないって!)」
「随分仲がいいんですね」
あ、ダメ。
息が……。
「ああ、最近はお前より仲良くさせてもらってるよ」
「前から思ってたけど女なのに男の格好して気持ち悪い……今みたいに女の子とイチャイチャしてるのがお似合いですよ」
「そうか、私とゆいゆいはお似合いか」
「はい、満足したら薄汚い同性愛者はおにぃに近づかないで下さい」
「そうかそうか、ふふふ」
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