制服+白スク+俺
妹との小さなお茶会を終え、彼女は自分の部屋に戻って行った。
ケーキを食べている時に少し眠そうだったから、多分昼寝でもするんだろう。
つまり時間があるって事!
押入れから例の服をひっぱり出すと、畳んでいないのに綺麗に畳まれていたヴァルガニカを広げて襟首を掴む。
これまでの事を具体的に聞く為だった、んだが……さっきまで猫耳パーカーだったのに、何かグニャグニャした液体になって……え、これって……。
「な・ん・で! 服が変わってんだよおい!」
ヴァルガニカが姿を変えた。
妹の制服と白いスク水のセットだ、現実で着たら一発補導になりそうなアニメやゲームでしか考えられない組み合わせ。
制服は普通だが、胸元やスカートの下に見える白いスク水が変質者感を高めてやがる。
下着じゃないから見られてもいいってか?
普通に下着じゃないから見られるとまずいんだっての!
「制服とスク水ってどんな組み合わせだよ! つーか白スクって実在しねーもん出してくんな!」
「マスター、ですが」
「焼却する前に聞いてやる、だけどふざけた答えなら即刻燃やすからな」
蚊取り線香を付けるときにしか使わないライターを取り出し、俺は妹の制服の襟首を強く握り、睨む。
……いまこの状況を見られたら……いや違うか、いつ見られても同じだ。
やばい事には変わらない。
「連続で同じコスチュームは使えません、休ませないと防御力の低下、最悪破れたりします」
「だからってそのチョイスはねぇだろそのチョイスは! なぁヴァルガニカ、この組み合わせを現実で見た事あるか? ねぇよなぁ!」
「これはマスターの脳内から取り出したコスチュームです、見覚えありませんか?」
いやこんな過激な姿、一回でも見たら……。
……あれ、これって……制服はちがうけどこの感じって……。
「あーーーっ!!」
そうだ、ツイッポー上での俺のライバル。
みぃ@男の娘が最近着てた服だ!
男である以上、絶対にスク水は着られないって思ってたら常識を破壊してきたアレじゃん!
「スク水制服……俺もやろうと思ったけど道徳心とか、妹の水着を着るのは流石にライン超えだと思って出来なかった……あの時の色違いの服!」
制服が妹のなのは俺が一番記憶に残っている制服が、妹の女物のって事なのか?
だけど白スクは知らないぞ、アイツが着ていたのは普通のスク水だった。
「……これってさ、お前が変化してこの服になってんだよな? 妹の本物の水着と制服じゃねぇよな?」
「勿論です」
それなら……着ても……いいよな?
着ちゃっても、いいんだよな?
「今お前を着て自撮りすればアイツに追いつける。……いや、アイツは男なのに男が好きみたいな事言ってたし、俺がやるのとアイツがやるのじゃ全く価値が違う」
男に好かれたい男。
ガチな男の娘っての? よくわかんねぇけど、俺はあくまで趣味でやってる女の子が大好きな健全青年。
ガチな奴に趣味程度で勝つ、これはすなわち完全勝利!
見てろよ、またフォロワーの数で抜いてやるからな。
「よし、その姿のままいろよ!」
「了解しました、マスター」
早速スク水制服を着てカメラを起動する。
とある一部分が窮屈だが、ピッチリと張り付くようなこのスク水の感覚が何とも言えない……クセになりそう。
この男が着る用にはつくられてない服を着るときの何とも言えない感覚とゾクゾクがたまらない、しかも……鏡に映る俺、マジで可愛い。
「確かアイツはスカートを半脱ぎにして、制服の裾を口で咥えて……手で股間を隠しつつ、自撮りしてたよな」
実際にやってみると……めちゃくちゃ恥ずかしい。
それに悔しいが、このポーズはめちゃくちゃエロい。
男がやってるのに、とにかくエロい!
下着とは違うスースーした感じと、昼間からスク水で女装してるって背徳感が俺をどんどん気持ちよくしてくれる。
「スマホどこ置いたっけ……自撮りしなきゃ」
カメラを起動し、角度を調整。
そしてここからが大切なんだ。
目線。
これ一つで自撮りの良し悪しが分かれるって言っても過言じゃないぐらい大事なんだ。
わかりやすく言えばローアングルで嫌な顔をするのと、正面から嫌な顔をするのじゃ受け取り方がまるで違ってくるだろ?
ほら、ローアングルの方が見下されてる感がして良くないか?
よし、やるぞ!
「マスター、今の間に色々と説明しても大丈夫でしょうか」
「ああ、つーか俺から聞こうと思ってたしちょうどいいや……まずさ、あの敵は何?」
「フェイスレスと呼ばれる人類の敵です、今回戦ったのはノーマル個体でしたが、様々な種類が確認されています」
フェイスレス……顔が無い……やっぱりのっぺらぼうじゃん!
誰が付けたのか知らねぇけど、ネーミングセンスをもう少し磨いてから名付けてほしかったね。
正面カメラ目線だと……微妙か?
ここは少し目線を下げて……。
「んじゃ次、変身って何だよ。ほら、ゆいが言ってたやつ」
「変身とはフェイスレスと戦う為に人体を強化保護するコスチューム、美装を展開する事です。美装は私のような服で、人体を強化、精神を保護し、通常ではあり得ない動きも可能にしますし、特殊な状況下でも耐えられます。またある程度までならフェイスレスの攻撃を防いでくれます」
目線を外すと……やっぱりカメラ目線のがいいな、ここは斜め上からの上目遣い、それで見下す感じで……これなら!
……完璧。
今世界で一番俺が可愛い。
タイトルはそうだな……男にこんな格好させるとか、本当に気持ち悪い。
これで投稿しよう。
「そのある程度を過ぎたらどうなるんだ?」
自撮りを加工し、口元を少し隠してツイッポーに投稿する。
……よし、これでみぃの野郎には負けねぇ。
「美装が破損すれば人類が生身で勝てる相手ではありませんから、殺されます」
「……は? え、いやちょっと待て、お前今なんて」
「耐久値を上回る攻撃は肉体への直接的なダメージとなり、人体はそれに耐えられる程強くはありません」
送信を押してから俺の身体は固まった。
あの戦いで死んでいたかもしれないって事か?
「いえ、ノーマルフェイスレスの攻撃でやられる程私は旧式でもポンコツでもありませんから、さっきの戦いで死ぬ事はありえませんでした」
いやいや、そうだとしても、してもだ。
妹も変身していた。
つまり……。
「ヴァルガニカ! 妹は何で巻き込まれてんだよ、ええ!? 命を落とすかもしれないって戦いにアイツが関わる必要はねぇだろ!」
妹は俺の知らない所で、死ぬかもしれない戦いに巻き込まれていたんだ。
何も聞かされてない、何も知らない。
いつも通りの生活をしていたのに、アイツは気づいたら居なくなっていたかもしれない。
そう思うと……怒りが湧いてくる。
「ですから、少しでもそのリスクを減らす為、拡張強化パーツとして唯一無二の最新式である私が送られてきました。しかし、初期登録はゆいにゃん様ではなく……ゆいゆい様になってしまいまして」
つまり何だ、俺が勝手に荷物を開けて、可愛いって勝手に着て、それで本来妹の装備の拡張パーツを取り上げた形になってる、って事か?
「登録解除だ、クーリングオフでもいい!」
「できません。もうゆいゆい様の装備として登録された以上、破壊されてもゆいにゃん様の装備にはできません」
「なら俺とゆいの分の服は返す! だから巻き込むな!」
「契約違反です、それは出来ません」
ヴァルガニカを妹に譲る事も出来ない。
戦いから解放もされない。
ふざけんなよ、人類の為だが何だか知らねぇけどさ、俺達兄妹を巻き込むなんておかしいだろ。
「……そもそも何でアイツが戦いに巻き込まれてんだよ、アイツだけでも解放してやってくれ」
「何故ゆいにゃん様が戦闘に参加しているか……エラー、セキリュティレベルが足りません」
せめて妹だけでも護りたい。
そう思って言ったのに、コイツは機械だった事を思い出させるように、冷たくエラーと言いやがった。
あったまきた。
「よし分かった、妹を戦いに巻き込んだ奴は何処にいる? いっぱつぶん殴ってやる」
こうなりゃ話ができそうな奴に直接会いに行く。
そこで妹を巻き込むなって言ってやる!
そんでもってヴァルガニカも妹の美装……だっけ、とにかく変身出来る物を全部叩き返してやる。
「司令であれば、現在はエインヘリアル中日本支部の拠点にいます」
「中日本支部って……どこだよ」
場所は分からないが、司令ってのは分かる。
多分、妹に変身できる服を押し付けて戦わせようとした張本人だろ。
決めた、絶対殴り飛ばす。
「支部は私達、変身可能な者達にサポートや指示を出す場所です」
どうせ自分は戦わず安全な所から指示だけ出す奴らがいるだけなんだろ?
ますます頭きた。
「そこなら話できる人が、司令とやらがいるんだな?」
「はい」
「じゃそこに行くぞ、案内しろ」
見つけて殴る。
司令ってのがどんな美少女でも殴る。
顔を殴る。
何をしてでも、妹だけは解放させる。
「支部へのアクセスオーダー……許可、テレポートします」
部屋が真っ暗になる。
それと同時にどこまでも落ちていくような、そんな感覚が体を襲って、ふと下を見た。
部屋の床はそこに無くて、あるのはただの……無の暗闇だけだった。
「到着しました、スタンバイモードに切り替えます」
怖くなって目を閉じていると、ヴァルガニカの到着したと言う声が聞こえて、おそるおそる目を開ける。
するとそこには……。
和室だ。
結構広い和室。
辺りを見回しても木造? っぽい作りだって事、そして前と後にドアがある事しか分からない。
さっきまで俺の部屋にいたってのに、いきなり……すげぇな。
「ここが作戦待機所になります。ここで装備等を整えたり最終確認をします、それが完了すれば後ろのドアをくぐるとエインヘリアル指定のレッドゾーン、出撃ハッチになります」
もう……何がなんだが……。
「簡単に言ってくれ、何処に行けばいい?」
「前方の白いドアです、後方の赤いドアがレッドゾーンの入り口になります」
「前に進めばいいんだな?」
「その通りです、マスター」
しかし……弱ったな。
白いスク水の上に妹の制服(上半身だけ)って姿で人に会うのは避けたい。
こんな格好で人に会えば……その、下半身の膨らみで男だって一目でバレるし、女装して人に会った事がないから怖いし。
つーかこの格好で人に会って、そのまま殴りかかれるか?
普通に……ダメだ、この格好じゃ殴れた側もなんか可愛い変質者に殴られたとしか思わないだろ。
「やっぱ……一回帰るぞ」
「マスター、後方レッドゾーンから人が来ます」
え、ちょ、ま!
警告され、俺は短すぎるスカートを両手で抑えながら振り返る。
「いてて……ちょっと無茶しすぎたかな」
あれはタキシード、いや燕尾服か?
まるでアニメの中から出てきたような服を着ている人物は、綺麗な黒髪をポニーテールにまとめていて、体つきはとても女性らしいんだが、とにかく顔がいい。
俺が女を超えた可愛さを持つ男だとするなら、彼女は男を超えたイケメンさを持つ女だろう。
そして、俺はその女性に見覚えがあった。
身長は俺よりも頭一つ高く、劇場であれば綺麗な服を着て主役をやっていてもおかしくない。
すらっとしているのに、出る所はしっかりと出ている。
そこにいやらしさはほぼ感じず、あるのはただ一つ。
カッコいいしか、そこには無かった。
そんな彼女は……。
「……しずくねぇ?」
「え……ゆいと? 何でここに……?」
こいつは、俺に女装を教えた女だ。
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