第29話 変わった関係、変わらぬ日常

「おっはよー、カズマ」


「うぉっ、いきなり布団の横に立つな! ホラーかお前は!」


翌朝。カズマが目を覚ますと、浴衣姿のめぐみんが腕を組んで、ニコニコしながら立っていた。


「カズマがいつまで寝てるか見張ってたんですよ。恋人として当然の義務ですよね?」


「いや、今までそんな義務なかったし。ていうか恋人だからって見張るなよ!」


「だって、恋人ですから」


「ぐっ……! 急に恋人パワーを使ってくるなぁ!」


カズマは顔をしかめながら布団から起き上がる。

そして、そんな彼にめぐみんはにやりとした笑みを向けた。


「……そういうところも、好きなんですけどね」


「おい、急に爆弾投げてくるのやめろ! こっちは心の準備がだな!」


「うふふふっ」


朝食を終え、チェックアウトを済ませたふたりは、アクアたちの待つ街へと戻る道を歩いていた。


「そういえば、アクアたちに報告するんですか? 付き合い始めたこと」


「いや、別に言わなくてよくね? どうせバカ騒ぎになるし……」


「たしかに、ダクネスがまた『私も同行すべきだな』とか言い出しそうですし」


「ありえる……100%ありえる……」


ふたりは苦笑しながら、のんびりとした道を歩いていく。

恋人になったとはいえ、どこか以前と変わらぬ掛け合いがそこにはあった。


でも――


「なあ、めぐみん」


「はい?」


「手、つなぐか」


「……やっと言いましたね。私からは言わないでおこうと思ってたんですよ」


「いや、お前、意外と小悪魔的なとこあるよな」


「恋人なので、多少のからかいはご褒美ですよ」


そう言って、そっと差し出された手を、カズマはそっと握った。

ほんの少し、照れくさい。だけど、それ以上に――


「……あったかいな」


「ふふっ。カズマの手、意外と大きいですね」


温泉街の出口、朝靄のかかる道に、ふたりの影が並んで伸びていく。

これまでとは少し違う、でもどこか安心できる空気がそこにあった。


「――で!? どういうことよ!!」


「カズマー! なんで私たちに黙ってたのよー!」


「ふむ……ついに、貴様らもそういう関係になったか……。ならば私も……!」


街へ戻った直後、即バレた。


「言わなきゃよかったって、めっちゃ思ってる」


「ちょっとカズマ、それどういう意味ですか?!」

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