第27話 ダクネスとアクアのいない二人きりの夜

「というわけで、今日は泊まりの遠征ですって。ダクネス、張り切って出ていきましたよ」


夕方、屋敷に戻ったカズマとめぐみんは、リビングでくつろいでいた。


「……いや、マジで? 今日、俺とめぐみんだけ?」


「そうなりますね。ゆんゆんも里に帰ってますし、ウィズの店は閉店後ですし。……しばらくはふたりだけですよ」


「そっか……いや、別にいいけど。俺、ひとり時間けっこう好きだし」


「カズマ、ひとりじゃないですよ。私がいますから」


そう言って、めぐみんはティーカップを差し出してきた。


「紅茶、入れてみたんです。どうですか?」


「おお……意外と優雅なことするじゃん」


一口飲んでみると、ほんのり香るハーブが心地いい。


「うまいじゃん。これ、どこで覚えたんだ?」


「ゆんゆんが教えてくれました。“女子力アップのために”って言ってましたよ」


「……あいつ、けっこう努力してるんだな」


「ふふっ、私も負けていられませんからね」


どこか楽しそうなめぐみんの表情に、カズマも笑みを返す。


夕食を終えて、ふたりでまったりとした時間が流れる。


外はすっかり夜になっていて、窓からは満点の星空が見えた。


「……なあ、めぐみん」


「はい?」


「お前ってさ、ひとりで暮らしたいと思ったこととか、ないの?」


「うーん……たまには、静かな場所に行ってひとりで読書とかしてみたいなって思うことはありますけど……」


「けど?」


「でも、結局すぐ寂しくなりそうです。……私は、賑やかなのが好きですから」


「そうか。じゃあ、今の生活はちょうどいいってことか?」


「……はい。カズマやみなさんと一緒に過ごす時間、私はけっこう気に入ってますよ」


「……へえ」


「それに、カズマがいると、安心できますし」


その言葉に、カズマはちょっと驚いてめぐみんの顔を見る。


でも、めぐみんはあくまで自然な笑顔で言っていた。


「子どもっぽいかもしれませんけど、強い魔法を撃ったあと、あなたがそばにいるだけで、すごく安心するんです」


「……俺、そんな頼れる男だったか?」


「ふふっ、自信持っていいですよ。少なくとも、私はそう思ってますから」


カズマは少しだけ、目をそらしてぼそっとつぶやいた。


「……そういうこと言うと、期待しちゃうからやめろって」


「え? 何か言いましたか?」


「いや、なんでもねーよ。寝る前に風呂入ってくるわ」


「はい、いってらっしゃい」


浴室へ向かうカズマの背中を、めぐみんはそっと見送る。


(……期待しても、いいんですよ)


小さくつぶやく声は、カズマには聞こえていなかった。

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