第19話 闇の中の咆哮

鬱蒼とした森の奥、獣の咆哮がこだまする。


「……カズマ、どうやら近いみたいですよ」


めぐみんが低く呟く。耳を澄ませるまでもなく、木々のざわめきの向こうから唸るような低音が聞こえていた。明らかに、普通の獣ではない。


「まじか。昨日の足跡と痕跡からして、そこまでデカくないと思ってたんだけどな……おい、ダクネス。準備はできてるか?」


「いつでも来い……その獣の激しさ、私が受け止めてやろう……!」


「お前はいつもテンション高すぎなんだよ!」


吐き捨てながらも、カズマは慎重に周囲を見渡した。霧の立ち込めた薄暗い森の中で、彼の唯一の頼りは、仲間たちの存在だった。


「ウィズも後ろで支援お願いな。攻撃は、爆裂魔法以外で頼むぞ、めぐみん」


「はい、了解しました。ちゃんとタイミング見て、撃ちますから」


いつになく冷静なめぐみんの声に、カズマは一瞬だけちらりと横目で見た。魔法の杖を握るその手に迷いはない。いつもの爆裂狂ぶりは潜め、冒険者としての顔をしている。


……そういえば、最近の彼女はずいぶん落ち着いてきた気がする。


そんなことを思う間もなく、前方の茂みがガサリと揺れた。


「来るぞ!」


突如飛び出してきたのは、黒い毛並みをまとった、巨大な狼のような魔物だった。だが、その目は明らかに魔力に蝕まれており、普通の獣とは違う。


「こいつ……魔獣か!?魔力汚染された個体だな、間違いない!」


カズマの言葉に、めぐみんとウィズが同時に頷く。ダクネスが盾を構え、真正面から突っ込む。


「カズマ!援護を!」


「おう、エアスラッシュ!」


カズマの風刃が魔獣の足元を削る。それに合わせてウィズが氷の魔法を放ち、動きを鈍らせる。


「めぐみん、今だ!撃て!」


「了解です!爆裂魔法――ッ!」


空気が震える。めぐみんの杖の先に魔力が集中し、辺り一帯が光で満ちた。だがその時――


「やばい、爆風でこっちまで巻き込まれる!」


「へっ!? あ、ああああああああ――っ!」


ドォオオオンッッッ!!


爆発音と同時に、森が一部丸ごと吹き飛んだ。魔獣は直撃を受け、黒煙の中に消えた。めぐみんは予想通りその場にへたり込み、呼吸を荒くする。


「や、やりましたよ、カズマ……うまく、いきました……」


「うん、完璧だ。完璧だったけど、お前が倒れた時に魔獣の残骸が倒れかかってくるのは勘弁してくれ!」


カズマは急いでめぐみんの元に駆け寄り、その細い体を抱きかかえて移動させた。


「ありがと……ございます、カズマ。ちょっと、動けそうにないですけど……気持ちは、元気ですよ」


「うん、お前がそう言うならいい。もうちょっと休んだら、帰ろうな」


めぐみんは微笑んで頷く。その表情に、どこか満足そうな達成感が宿っていた。


彼らの戦いは、まだまだ続く。だがこの日、確かにカズマの胸の内には、かすかに温かいものが残っていた。


それが何なのか、彼はまだはっきりとは分かっていなかったが――。


次回、**第

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