第20話:伝えたい言葉

昼休み。

藤本悟は、教室の窓からぼんやりと外を見ていた。


(このままじゃ、だめだ)


すれ違ったまま、何もしないまま――

そんなのは絶対に嫌だった。


意を決して、悟はスマホを手に取り、メッセージを打ち込む。


『今日、放課後ちょっとだけ話せる?』


送信ボタンを押す瞬間、心臓がバクバクとうるさく鳴った。


数分後。

七瀬茜から返事が来た。


『うん、いいよ』


たったそれだけの返信に、悟は胸を撫で下ろした。


放課後。

ふたりは校舎裏の小さな花壇の前で向き合った。


風が、春の匂いを運んでくる。


「……悟くん、ごめんね」


茜が先に口を開いた。


「私、勝手に怖がって、悟くんにちゃんと向き合えなかった」


悟は首を振った。


「俺もだよ。茜に嫌われたくなくて、何も言えなかった」


少しの沈黙。

でも、ふたりは逃げなかった。


茜が、ぎゅっと手を握りしめながら、震える声で続けた。


「私……悟くんと一緒にいたい。もっと、ちゃんと向き合いたい」


悟は驚いて、でもすぐに笑った。


「俺も、同じ気持ちだよ」


そう言って、そっと茜の手を取った。


指先が触れる瞬間、ふたりは確かに笑い合った。


心が、ちゃんと繋がった。


(すれ違ったけど、離れなかった)


そんな小さな奇跡に、悟は静かに感謝した。

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