第11話:アプリの外でも、君と

週明けの月曜日。

教室の空気は、いつも通りの騒がしさ。

でも、藤本悟にとっては、少しだけ世界が違って見えた。


(茜と、LINEで話した。声も聞いた。もう“あかね”じゃない、ちゃんと……“七瀬茜”なんだ)


いつも通り教室に入ると、七瀬が手を振ってくる。


「おはよう、悟くん!」


一部のクラスメイトが「えっ、名前呼び!?」とざわついてるけど、気にしない。


「……おはよう、茜」


ほんのちょっとだけ照れて、それでも自然に返せた。


(アプリで築いた関係が、今こうして現実になってるって、すごいな)


昼休み。

七瀬が悟の席の隣に来て、お弁当を見せてきた。


「ね、今日うちの玉子焼き、ちょっと味濃いかも。食べてみる?」


「え、いいの?」


「うん。昨日の電話で“卵好き”って言ってたでしょ?」


(うわ、そんな細かいとこまで覚えてくれてんのか)


「……じゃ、いただきます」


ぱくっ。


「……うまっ。なんか、甘じょっぱくてちょうどいい」


「でしょ~? うち、関西風なんだよね」


なんでもない会話。

でも、それが嬉しい。


スマホ越しじゃない、目の前の茜と話してる今が、

悟にはたまらなく大事な時間だった。


放課後。


「ね、ちょっとだけ寄り道しない?」


「どこ行くの?」


「駅前のカフェ。……行ってみたかったんだ、一緒に」


まるでデートみたいな誘いに、悟の心臓は跳ねたけど、顔には出さずに頷いた。


(アプリの中で出会って、現実で繋がって――)


(今、ちゃんと“隣にいる”)


カフェの窓から見える夕焼けが、二人の影を優しく照らしていた。



#毎日1話投稿します。ほかの作品もよろしくお願いいたします。

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