第4話:君だと思ってた

次の日の朝。

教室に入ると、すでに七瀬 茜は自分の席でスマホをいじっていた。


「……おはよ、藤本。」


「お、おう。おはよう。」


目を合わせられない。

だって昨夜、あのチャットの“あかね”は、確実に七瀬だったと確信してしまったから。


(今日の学校、ちょっと疲れた〜。クラスの男子って……)

(後ろの席の男子……俺のことだろ、絶対……)


そんな妄想を胸に、悟は自分の席に座る。

すると七瀬が、ちらっとこちらを見て小声で言った。


「……なんか、昨日の夜さ」


「……え?」


「ちょっと、似てるなって思ったの。話してた相手。」


悟の鼓動が跳ねた。


「な、何が……?」


「んー、趣味の話の感じとか、テンポ? なんか、君に似てた。」


七瀬の声はどこか探るようで、でもどこか嬉しそうでもあった。


「へぇー……偶然じゃない?」


そう言ってみたものの、自分の声がうわずっていたのはわかった。

隠してるつもりでも、バレバレかもしれない。


(もしかして、七瀬も気づいてる……?)


その日の放課後。

スマホの通知が鳴った。


<「ねえ、悟くんって、どこの学校なの?」>


悟はしばらく指を止めて、考えた。


(これ、試されてるよな……)


画面を見つめながら、静かに答えを打ち込む。


<「教えない笑。でも、ヒントはあるかも。」>


<「ふーん、じゃあ当ててみせるから。私、勘は鋭いんだよ?」>


<「……だろうな。」>


画面の向こうと、教室の向こうで、微妙にすれ違いながら確かめ合う二人。


その“確信”が、本当の意味で確かになるのは、もう少し先のことだった。

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