『可愛い彼女が、僕を監禁した。』

ぼくしっち

第1話「きみのために鍵をかけたんだよ」

どこで間違えたんだろう。

初めて会った時?

それとも、あの夜「好きだよ」って言った瞬間?


それとも、もっとずっと前――

僕の人生が、最初から間違ってたのか。


目を覚ますと、天井が低かった。

古い木造家屋のような天井板、ぼろぼろの壁紙。

あたりを見回すと、部屋は六畳ほどで家具は最低限。

ベッドの横に小さなテーブルがあり、その上に置かれたスマホは電源が切れていた。


足首が重いと思ったら、鎖がついていた。


「おはよう、ハルくん」

ユイがいた。

スカートの裾を揺らしながら、笑顔で紅茶を運んでくる。

まるで、朝食を運ぶ新婚妻のように。


「ちゃんと寝られた? 寒くなかった?

ねえ、これ、ユイが淹れた紅茶だよ。きみの好きなアールグレイ。

お砂糖はいつも通りスプーン一杯ね。覚えてたでしょ?」


僕は言葉を失った。

ユイは椅子に座り、僕の顔を見つめる。

その目には狂気はない。ただ、過剰すぎる優しさだけがあった。


「……ユイ、ここはどこ? 鎖って、どういうこと?」


「ん? あ、気にしないで。

これはね、きみを守るための鎖なの。

だって、もし外に出たら、きみ…他の女の子と喋っちゃうでしょ?」


僕は、すこし笑ってごまかそうとした。

だが、ユイは笑わなかった。


「きみは、ユイだけ見てればいいの。

他の女なんて、全部死ねばいいのに。

……あ、ごめんね? 怖がらせちゃった?」


笑顔で、そう言った。

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