セフレ全員家に呼んだら、百合ハーレムが始まりました

冷めたサメ

第1話3人も来た

高校に進学して一人暮らしを始めてから、食事はコンビニ弁当やレトルトで適当に済ませてきた。でも、2年に上がったのを機に自炊を始めた。


…とはいえ、初挑戦は盛大にやらかした。


王道のカレーに挑戦したはいいが、鍋いっぱいにできたそれは、どう見ても10人前を超えている。ルーの箱の裏の説明通りに作ったのに、1箱使い切るとこうなるなんて、想像もしていなかった。


「えっと…これは明日まで放置しても大丈夫? それとも冷凍? タッパー、あったっけ…」


途方に暮れながら、スマホを手に取った。


カレーを消費する方法を考えた末、軽いノリでLINEを開き、目に入った「特別な関係」の子たちに片っ端からメッセージを送る。


「カレー余ったんだけど、食べに来る?」


ただそれだけ。深い意味はない。一人で食べるのが面倒で、誰かに付き合ってほしかっただけだ。


夕飯時だし、誰も来ないだろうと高を括っていたら、なんと3人も来るらしい。


「まずい…このままだとセフレ食事会になっちゃうな…」

でも、まあ、いいか。付き合ってるわけじゃないし、ヤること以外はただの友達なんだから。


---


ピンポーン。


玄関のチャイムが鳴った。


「詩音せんぱいっ! お邪魔しまーす!」


ドアを開けると、飛び込んできたのは見慣れた後輩の顔。

日向日和、1年生。私のセフレの一人だ。


「こんばんはー! まさか、せんぱいの手料理を食べられるなんて…日和、感激です!」


元気いっぱいに笑いながら、彼女は当然のように部屋に上がってくる。


「来てくれて嬉しいけど、今日あと2人来る予定なんだ。気まずかったらごめんね?」


「えー? あと2人って…私のためだけに作ってくれたわけじゃないんですね~」


日和がソファにどさっと座り、ふてくされたようにクッションを抱え込む。


(他の人が来るかもって伝えず誘っちゃった…めっちゃ気まずくなったらどうしよう。全員初対面だろうし…)


「まあ、余ったから呼んだだけだよ」


淡々と答える。嘘じゃないし、誤解されても困らない。セフレが一人減ったって、どうってことない。


「そっかぁ…詩音せんぱいって、そういうとこホント良くないですよ~」


日和がむーっとした顔でクッションをぎゅっと握る。


「カレー嫌い? 玉ねぎダメとか?」


「そういうんじゃないです! 余ったって言い訳で、本当は私のために作ってくれたんじゃないかって…期待しちゃうじゃないですか!」


「ふーん、そういうもん? じゃあ、次2人きりのときは日和の好きなもの作ってあげるよ。…簡単なやつでね」


---


ピンポーン。


再びチャイムが鳴り、ゆっくり玄関へ向かう。


「やっほー、しおっち! カレー、ゴチになりまーす!」


軽いテンションで入ってきたのは、如月美紅。

ゆるく巻いた髪をハーフアップにまとめ、オーバーサイズのシャツから覗くショートパンツ。控えめなピアスに白スニーカー。派手じゃないけど、ちゃんと「おしゃれ」。それが彼女らしい。


「……あれ? 誰かもういる?」


リビングを覗き込んだ美紅の視線が、ソファの日和に止まる。


「あ、どーも…」


「え、めっちゃ可愛い!」


美紅が弾んだ声で日和の隣にどすんと座る。突然の「可愛い」に、日和は目を丸くして固まった。


「え、えっと…」


「しおっちの妹? 名前なんていうの? こんな可愛い子いるなら教えてよ~!」


「わ、私は日向日和です…その、妹じゃなくて…ただの後輩で…」


見かねて助け舟を出す。


「2人とも同じ学校でしょ。先輩後輩、仲良くしてね~」


「うん、仲良くする! ね、日和ちゃん? カレー楽しみだね!」


「……はい、ですね」


日和が少し俯きながら、口元をほころばせる。


(友達の友達って気まずいイメージあるけど…美紅のコミュ力、さすがだな)


---


ピンポーン。


3度目のチャイム。


「こんばんは、詩音ちゃん」


柔らかい笑みで現れたのは、一条結花。3年生の先輩で、私のセフレの一人。

落ち着いた仕草に、ほのかに漂う上品な香水。相変わらず隙がない。


「まあ、今日は賑やかですこと」


リビングを覗いた結花が、日和と美紅に視線をやる。2人も自然と立ち上がり、挨拶する。


「ど、どうも…」


「うぃーす! こんばんわ~!」


「わたくし、一条結花と申します。詩音ちゃんとは、ちょっと特別な関係ですのよ」


さらっと放たれた「特別な関係」に、空気が一瞬凍る。


私は聞こえなかったふりをして、キッチンでカレーを皿に盛り始める。


---


4人でテーブルを囲む。

一見、和やかな食卓。

でも、ふとした瞬間に目が合っては逸らされ、互いの様子を伺うような微妙な間が生まれる。


カレー自体は上出来だ。問題は、このメンツ。


「詩音ちゃん、お口に…」


結花が私の頬をそっと指で拭い、スプーンを持った手を口元に近づける。


「…ふふ、“あーん”します?」


「いや、しないけど?」


「まあ、冗談ですわ」


結花がさらっと笑ってスプーンを戻す。


その直後。


「……私も、あーん…したいかも…」


日和がぽつりと呟く。


「え、待って。あーん流行ってんの? じゃ私もやっていい?」


「いや、全員やらなくていいから!」


カレーをかき込む勢いで話を逸らす。


(2人きりならまだしも、4人で食べてる時にあーんはないだろ…)


そして気づく。

みんな、私との距離がやたら近い。無意識に「特別な相手」として振る舞ってる。

それは、互いに伝わってるはずだ。


日和がぽつりと口を開く。


「……あの、詩音せんぱい。この集まりって、どういう関係なんですか?」


テーブルの空気が、すっと静まる。


「部活も違うし、学年もバラバラで…何か繋がりがあるのかなって…」


カレーをかき混ぜながら、苦笑いする。


「どうしてって…」


肩をすくめて、言った。


「たまたまできた友達が学年バラバラなだけ。クラスに友達あんまいなくてさ~」


誰かがスプーンを止める気配。


「まあ…友達っていっても、セフレだけどね」


静まり返ったテーブル。

誰もがスプーンを持ったまま、動かなくなる。


でも、私は気にしない。

だって本当のことだ。困ることなんて、何もない。


そう思いながら、カレーを一口、平然と口に運んだ。

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