ベランダに吹く風

ハルナギ(晴凪)

プロローグ:ブレーキを踏む勇気

疲れ切ったわけじゃない。

壊れてしまったわけじゃない。


きっとまだやれる。きっと、ここからもっと楽しくなっていくはずだ。


そう確信が持てるのは、

何度も経験しているから。


___だからこそ、私は「楽しくない方」を選んだ。

「わくわくしない方」を選んだ。

それは、どんな早起きよりも辛かった。


だけど、そうじゃないかもしれない。まだ、分からない。


でも。少しつづ、

ほんのちょっとづつだけれど、自分のペースが上がっていくのがわかっていた。


このままじゃ、またどこかで転ぶ。

アクセルばかりを踏み込んで、ハンドルを切り損ねるのはいつも自分だ。


私に中にある“その危うさ”を誰よりも知っているのは、他ならぬ私自身だった。

だからこそ、ブレーキを踏む勇気が必要だった。「休む」と言う決断は、逃げちゃなくて、次に進むための準備。今ならそう思える私がいる。


だけど、その選択は決して簡単ではなかった。

だって、大好きだから。


毎週末に片道3時間かけて運転してまで海に通うほどのサーフィンよりも

旅先で、レストランよりもまず最初に調べるコーヒー屋さんよりも

毎朝、SNSで観察日記をつけるほどの観葉植物よりも。


でも、あの時、腹をくくれたのは___

アソビの師匠の言葉があったからだ。


「完休でもなく、常勤でもなく、その間をとって非常勤でいいんじゃないか」

路頭に迷いかけていた私に、さらっと送られてきたLINE。


私は彼のことを“アソビの師匠”と呼んでいるのだけれど、

本当は、私にとって『人生の師匠』みたいな存在だと思っている。


誰とも違う視点で。優しく痛く。でも確かに、確信をついてくる。

それが、いつも私を立ち止まらせる。


もう、あの頃と同じ失敗は繰り返したくない。だから、今は歩みを止める。

この先、いつかまた___

担任として教室に帰るために。

私は、ちゃんと、休む。

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