戦え! 佛雁おじさん!

ぼんげ

標的0:歩きスマホの女子高生

 通勤通学のラッシュで大混雑する、朝8時の池袋駅3番ホームにて。


「きゃあっ……!」


 都内の高校の制服を着た女子生徒が、小さな悲鳴とともに尻もちをつく。


 ある者は無関心に素通りし、ある者は進路を阻まれたことに対する不快感を露わに舌打ちをする。またある者は、目線だけを向けて心配している風だけを装い、結局そのまま通り過ぎる。通行人たちの反応は実にさまざまだが、誰一人として手の一つも差し伸べずに素通りしていく点だけは共通している。


 実に冷たく薄情なことだ。まったく気味が良い。俺は背中越しに現代社会の縮図をひしひしと感じ、そして心の中であざけってやる。


 こんな混雑時に歩きスマホなんかしくさってやがるからだ、このクソガキめ。これに懲りたら、もう二度と歩きスマホなんてするんじゃないぞ。


 周囲からの冷ややかな視線が俺に向けられるが、そんなことは知ったことではない。なにか文句があるなら直接言ってみやがれ。


 俺は視線を振り払うため、わざと早歩きでホームの階段を降りていく。ラッシュの人混みが俺の通り道を開ける様は、神になったようで気分がいい。


 階段を降り、改札口へ向かう通路を歩いていく。このあたりまで来ると俺の華麗なる犯行を目撃した者もなく、無関心な他人の群れがいるばかりだ。いや、犯行というと人聞きが悪い。これはむしろ、迷惑な歩きスマホのクソガキを戒めるためのだ。


 しかし、もうこんな時間か。できる管理職の朝は早いのに、少し遅くなってしまった。会社に着いたら、いつも通り使えない部下共に気合を入れてやらなければならないのだ。まったく最近の若者は。営業ノルマも達成できないくせに、毎日毎日いっちょ前に定時上がりしやがって。俺があいつらぐらいのときは、毎日終電で帰るのが当たり前だったというのに。


 まったく、どいつもこいつも腹立たしい。次から次に湧き上がる苛立ちのせいか、せっかく社会のためにをしても、全く気なんか晴れやしない。


 憂さ晴らしにわざと周囲に聞こえるよう舌打ちをしてやると、小心者共がこちらを振り返ってきた。ふん、この間抜け共め。せいぜいそうやって一生、人の顔色ばかり窺って縮こまっていればいい。


 つかの間の愉悦にひたりながら、肩で風を切って改札へと歩いていく。


 すると突然、俺の左肩が何者かの手により掴まれてしまい、バランスを崩しよろけてしまった。


「なんだ、テメェ!?」


 不意の狼藉に苛立ち怒鳴りながら、肩に置かれた小さな手を思い切り振り払う。そしてそのまま振り返ると、そこに立っていたのは・・・・・・


「やあ、佛雁ぶつかりくん。突然だけど、キミの力を貸してくれないか?」


 明らかにサイズの大きいブカブカの白衣に袖を通した、先ほど突き飛ばしてやった女子高生くらいの年齢にしか見えない小柄な少女であった。


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