虹色覚醒者は無限に進化する ~世界初の虹色覚醒箱を開けたけど、地味すぎる? いえ、実は無限に強くなれるチートスキルです!妹たちのために、俺はこの力で成り上がる~
第23話 紫槍グングニル――因果を断つ者
第23話 紫槍グングニル――因果を断つ者
「……ようやく来たか。終焉の時間だ」
祓戸セツナの、静かで冷たい声が、禍々しい紫色の霧に包まれた円形ホールに響き渡る。
直径30メートルはあろうかという広大な空間。
その中央には、巨大な水晶のような物体――『無色因子安定化コア』が、
今はまだ無色の光を放ちながら鎮座している。
あれが、VOIDの狙いか。
セツナは、手に持つ紫色の光の槍――グングニルとでも言うべきか――を、ゆっくりと掲げた。
その槍の穂先から、世界そのものを否定するかのような、絶望的なオーラが放たれている。
「この世界は、歪んだ因果の連鎖によって成り立っている。苦しみ、悲しみ、不条理……それら全てを、俺が刈り取る」
セツナは、まるで演説でもするかのように、朗々と語り始めた。
「このコアを、俺の紫因子で染め上げ、全ての因果をゼロへとリセットする。そして、新たなる世界の創造主となるのだ。それが、俺の……いや、我らVOIDの悲願だ」
新世界の創造主……?
何を言ってるんだ、こいつは。
自分の勝手な理屈で、世界を滅茶苦茶にするつもりか!
「ふざけるな!」
俺は、セツナを睨みつけ、叫んだ。
「お前のくだらない自己満足のために、ユイやヒナ……そして、懸命に生きている全ての人たちの未来を、奪わせてたまるか!」
「……愚かな」
セツナは、俺の言葉を鼻で笑う。
「お前のような矮小な存在に、世界の真理など理解できまい。だが、案ずるな。新たなる世界では、お前のような『バグ』も、等しく無に還るのだから」
問答無用、ってことか。
上等だ。言葉で通じないなら、力で止めるまで!
──
セツナが、掲げたグングニルを、俺に向かって投擲した!
紫色の光の槍が、空間を切り裂き、凄まじい速度で迫ってくる!
『マスター、回避! 0.08秒後、右肩に着弾予測!』
オーディンの未来予測が、瞬時に危険を知らせる。
俺は、オーディンの指示に従い、咄嗟に身を捩る。
だが――!
グングニルは、ありえない軌道で湾曲し、俺の右肩を的確に捉えようとする!
必中スキル……!?
『……! 解析不能! この槍、目標を自動追尾する指向性攻撃です! 因果律に干渉し、結果を固定している可能性が……!』
オーディンが、珍しく焦ったような声を出す。
未来予測すら通用しないのかよ!
「くそっ!」
避けられないなら、受けるしかない!
俺は、全身の虹オーラを右肩に集中させ、即席の『屈折シールド』を形成する!
ズシャッ!!!
グングニルは、俺の屈折シールドを貫通し、右肩に深々と突き刺さった!
……かに見えたが、シールドのおかげでダメージは半減したようだ。
それでも、激痛と共にHPがごっそり削られる。
昨日セツナにつけられた紫傷が、再び裂け、どす黒い血が噴き出した!
「イズナ君!」
カレンが、悲鳴に近い声を上げる。
「まだだ……!」
俺は、歯を食いしばって耐える。
こんなところで、倒れてたまるか!
──
「……ほう。少しは楽しませてくれるか、虹の芽よ」
セツナは、眉一つ動かさずに呟くと、手をかざしてグングニルを呼び戻した。
そして、その身から、さらに濃密な紫色のオーラを放ち始める。
《因果斬断・領域(フィールド・ゼロ)》
セツナがそう宣言した瞬間、俺たちの周囲、半径20メートルほどの空間が、禍々しい紫色の光のドームに包まれた!
そして――
ザザザザザッ……!
HUDの表示が、激しいノイズに覆われ、オーディンの声も途切れ途切れになる!
『……警……告……! 特殊……フィー……ルド……確認……! 未……来予……測……機能……著しく……低下……! 遠……隔通……信……遮断……!』
マジかよ!? オーディンの機能が制限されるだと!?
この紫色のドームは、そういう効果があるのか!
「この領域内では、お前のその便利な『目』も役に立つまい」
セツナが、嘲るように言う。
「ここからは、純粋な力と技の比べ合いだ。さぁ、足掻いてみせろ」
オーディンのサポートなしで、こいつと戦う……?
無理ゲーすぎるだろ!
でも、やるしかない。
ゲームみたいに、リセットボタンなんてないんだからな!
リクト隊長が、雄叫びを上げてセツナに突撃する!
戦斧を振り下ろし、渾身の一撃を叩き込もうとするが――
セツナは、それをグングニルで軽々といなし、カウンター気味にリクト隊長の腹部を貫いた!
「ぐ……おぉ……!」
リクト隊長が、膝から崩れ落ちる。
腹部からは、大量の血が……! 重傷だ!
「リクト隊長!」
カレンが駆け寄ろうとするが、セツナの牽制の槍撃に阻まれる。
クソッ……!
オーディンが沈黙している今、頼れるのは自分だけだ!
俺が、進化するしかない!
「オーディンが黙ったって、俺の《無限進化》は止まらねぇんだよ!!」
俺は、叫んだ。
胸の奥で、何かが燃え上がるのを感じる。
虹色のオーラが、さらに濃度を増し、俺の右腕に集束していく。
即興で、新たな技を編み出す!
今までの《彩識刃》とは違う、もっと純粋で、もっと鋭利な一撃を!
《彩識刃:零式》!!!
俺は、セツナのグングニルの穂先目掛けて、虹色の刃を叩きつけた!
キィィン! という甲高い音と共に、グングニルの穂先が、わずかに削り取られる!
「……なに!?」
セツナが、初めて目に見えて動揺した。
その隙を見逃さず、俺はさらに踏み込み、セツナの左腕の装甲目掛けて、零式の刃を振るう!
ガキン! と硬い手応え!
セツナの左腕の装甲が砕け散り、その下から、わずかに血が滲んでいるのが見えた。
──
「……面白い。実に、面白いぞ、虹の芽……!」
傷を負ったセツナは、怒るどころか、むしろ愉悦に満ちた表情で笑っている。
こいつ、マジでイカれてやがる……!
そして、セツナは、信じられない行動に出た。
手に持ったグングニルを、あろうことか、背後にある『無色因子安定化コア』に、深々と突き刺したのだ!
「なっ……!?」
ズズズズズ……!
コアが、禍々しい紫黒色の光を放ち始め、激しく振動する!
天井からは、パラパラと破片が落ちてくる。
ダンジョン全体が、揺れている……!
「貴様、何を……!?」
「フフフ……コアの制御を、俺の紫因子で染めたのさ。もう、誰にも止められない」
セツナは、狂ったように笑う。
「さぁ、始まるぞ! 世界の因果がリセットされる、新たなるラグナロクが!」
ピコン!
ノイズまみれだったHUDが、突如として復旧した!
オーディンの声が、焦りを滲ませて響く!
『マスター! コアが暴走を開始しました! このままでは、7分以内に臨界点に到達! 東京湾岸エリア一帯が壊滅します!』
7分……!? まずい!
同時に、HUDには新たな表示が現れていた。
《無限進化》の項目が、激しく点滅している。
〈 世界危機レベル:Category F 確認 〉
〈 条件クリア:運命改写フェーズへの移行を許可します 〉
〈 ラグナロク・リライトゲージ: 0% → 35% CHARGE COMPLETE 〉
ラグナロク・リライト……?
なんだ、それ? 新しいスキルか?
ゲージが35%……まだ、完全には使えないってことか?
「……使うしか、ないのか……? この力を……」
俺は、自分の右手に集まる、金色に輝く虹のオーラを見つめて呟いた。
「……ええ。私たちは、まだ諦めてないもの」
カレンが、俺の隣に立ち、強く頷く。
「一緒に、未来を選びましょう、イズナ君!」
俺とカレンの視線が交差する。
その時、セツナのフードの奥で、その紫色の目が、妖しく輝いたのが見えた。
奴は、何かを確信したように、不気味に微笑んでいる。
世界の終焉まで、あと7分。
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