<序章・第1話「まだ夢を見ていた君へ」を読んでのレビューです>
序章は暗闇の中で死の気配を描く不穏な始まりから、軽妙な日常劇へと急転する。死と再生、眠りと覚醒が交錯する構成は、語り手を意識させながらも物語の自然な流れとして組み込まれている。登場人物たちは会話のリズムによって立ち上がり、街の空気や噴水の水音までが背景の一部として呼吸しているように感じられる。
個人的に印象的だったのは、
「吊るされたランプから漏れる橙色の光が辺りを照らす。テーブルは笑いで満たされ、晩餐は始まりを告げる。」
という一節である。日常の食卓を描写しながら、その温もりが物語全体に余韻を与える。直前まで漂っていた不安が、この瞬間だけ確かに解かれているようで、読者もまたその場に座している錯覚を覚える。
重苦しい夢の断片と、街の中で交わされる明るい会話。その往復が、ただの対比ではなく、人物の内側を照らす手段として機能している。読んでいてその緩急に自然と惹きつけられた。