黒歴史記

@tateba_factory

俺が眠った理由は、俺だけのせいじゃない。


五限目の社会、戦国時代の講義中に俺は、やってしまった。


うつらうつら、というレベルではない。完全に、落ちた。落ちた世界は深くて静かで、あの時の俺は、もはや人間ではなかった。魂が旅をしていた。


でも、正直に言おう。俺は反省している。寝てしまったのは俺のミスだ。少なくとも、50%くらいは。


けれど、先生もまた100%潔白ではない。俺が寝てしまった環境を整えたのは、先生でもあるのだから。


まず声が単調すぎる。いや、催眠音声かってレベルで抑揚がない。まるで『静寂』に人格を与えたかのようなトーンで、俺の耳を責めてくるんだ。しかもスライドも文字びっしり、読み上げるだけ。エンタメ性皆無。


「お前は教師という名のナレーターか?」と突っ込みたくなるが、実際に言ったら内申が死ぬので言わない。


俺は最近、『バトル・オブ・クロノス』っていうアクションアニメを見た。原作は少年誌連載の漫画。主人公・烈火(れっか)が、歴史を操作しようとする秘密結社と戦うストーリーだ。


烈火の授業シーン、1話目にあったんだ。社会の時間に世界史の年表を覚えさせられてる時、「こんなものに意味はない」って呟いてた。それを聞いた教師が「歴史は未来への羅針盤だ」と言って、烈火を黒板に呼び出したんだけど――そのあと烈火はその教師が敵組織の手先だったって気づいて、問答無用で殴り倒した。


…いや俺は殴ってないけど。


でも、烈火の気持ちはわかる。大人の言葉はときに、現実の感覚から乖離しすぎていて、眠くなるのだ。


「歴史を知ることは、未来をつくることだ」と言われても、じゃあ未来をつくれるような授業をしてくれって話だ。興味を持てる内容を、ドラマチックに、臨場感を持って伝えてくれれば、俺だって烈火みたいに目をギラつかせて聞いたさ。


それに、俺は前日も眠れてなかった。


なぜなら、深夜2時に『バトル・オブ・クロノス』の考察動画を3本立て続けに見てしまったから。だって、烈火の右腕の封印の意味、めっちゃ気になるじゃん……?


それが原因で寝不足になって、今日の社会で落ちた――つまり、因果は複雑に絡み合っている。先生一人の責任でも、俺一人の責任でもない。


「歴史は一人ではつくられない」 まさにそう。


俺が眠った今日も、一つの歴史だ。責任は、共有されるべきだ。


それにしても、先生のあの「起きなさい」の言い方よ。


クラスの前で少し声を張って、しかも俺の名前をフルネームで呼ぶって、羞恥の極みじゃない?


烈火なら絶対にこんな辱めを受けたら、その場で「お前が俺を起こしたということは、お前が俺を眠らせたという証左だ!」って黒炎をまとって反論するだろう。


……俺は黙って「すみません」と言った。黒炎、出ないし。


でも、次は負けない。


先生の単調な声にも、文字だけスライドにも、俺の中に潜む睡魔にも。


烈火も言ってた、「眠気は敵だ。でも、その敵は自分の中にいる。だから俺は、俺を倒す。」


俺も自分と戦う。


でも、先生にも変わってほしい。せめて声に抑揚を。できれば画像や動画も活用を。烈火も、授業でプロジェクションマッピングを使って過去の戦場を再現されたときは、マジで集中してたから。


歴史はドラマだ。先生も、演じてくれ。

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