消えないで

@tokikazuteru

消えないで

僕はとある研究員だ


彼女の声を聞きたかった、もっとたくさんの彼女の声を知りたかった


例えそれが罪だとしても…


僕には彼女しかいなかった、天才ともてはやされ怖がられ…


ずっと僕は一人だった 寂しかったんだ


一人でいる穴を埋めるかのように僕は毎日研究に没頭していた


そんな中僕のところにモルモットとして送られた彼女が来た


モルモット…そう、言わば生贄として彼女は送られた


僕も最初は彼女に何の情も湧かなかった


けど ある意味僕らは同じだった


本当の意味では僕も孤独だった そりゃそうだろう、人は皆孤独だ


けれど彼女はそんな僕にそっと寄り添ってくれた


彼女は僕を恐れるどころか一緒に笑い、一緒に多くのことを語ってくれた


彼女も寂しかったのだろう そうだとしても僕に情があったのかもしれない


…とてもそれが暖かな気持ちになり、嬉しかった…


僕は研究者だ、彼女のことをもっと知りたいと思ってしまった


彼女の心の声を聞きたかったんだ


人の心の声を聞く機械を作った、彼女は被験者になることを応じてくれた


ただ…何の因果か…


その機械はずっと動作するようになってしまった!


実験者「…すまない…すまない…!まさかこんなことになるとは…!」


被験者「頭の中を聞かれる被験者として生きていろと…?」かたかたと手を震わせながら


被験者「頭が狂いそうだっ…!」


被験者(私の頭の中を全て聞いている)


被験者(それを知っている)


被験者(…聞かないでくれ)


被験者(傷つけないでくれ!)



被験者「…私を苦しめるのがそんなに楽しいか」


被験者「最初からずっと動作するようにしていたのだろう!」


被験者「頭の中を全て聞いている…それが私をどれだけ苦しめているかも知らないで!」


被験者「私だって苦しい!」


心の声を聴く機械「彼女の心に攻撃心が植え付けられました」


「彼女の感情が暴走します」


実験者「っ…、これは…!」


実験者(僕らはどうすればいい…!?)


被験者「辛いっ…辛い!お前に攻撃を与えてやる!」


被験者「私の声を聞いている方が悪いんだぞ…!」


被験者「傷付いているのか、私の声を聞いて!」


被験者「勝手に聞いているくせに!」


被験者「聞かせたくて聞かせているわけではない!」


被験者「傷つけたくて傷つけてるわけでもない!」


実験者「…!」


実験者「…」


被験者「…もう、もう嫌なんだ」


被験者「いっそ私を消してくれ」


被験者「頼むよっ…」


被験者「私だってこんなことがしたいわけじゃない、悪いとも分かってる」


被験者「もう消してくれ…私の記憶ごと」


実験者「…僕だって」


実験者「どうしたらいいか分からないよ!」


実験者「君が僕を傷つけるなら」


実験者「消えてくれよっ…!」


実験者「全部君が悪いんだぞ!僕に攻撃をするなんてありえないだろう!」


被験者「ごめん…ごめん…っ」


被験者「ごめん、なさい」


実験者「…まあいい」


実験者「こっちだ…こっちに記憶を消す機械がある」


被験者「…!」


被験者「…分かった…」悲しそうに笑う


実験者(なぜいま彼女は悲しそうに笑った…?辛いだろうに)


コツ コツ コツ


実験者(…これでいいんだ)



実験者(…僕にはもうこれ以外思いつかない)



実験者(…彼女から僕の記憶が消える)



実験者(…)


歩むのを止める実験者


被験者「実験者…?」


被験者「どうしたんだ?」


実験者「いや…」


実験者「なんでも…ない」


実験者(…これでいいんだ)


実験者(たがいに傷付かないためだ)


------------------機械音声「記憶を消去します」------------------


実験者(これでよかったんだろうか?)


実験者(…これで…)


実験者(消えてくれて安心している?)


実験者(彼女の心の声を聞こうとして倫理を破ったのは僕なのに…?)


実験者(…)


実験者(…いや…)


勝手なことばかりしていたのは僕も同じだったじゃないか!!!!!!!!!!


どれだけ苦しい思いをしようが僕たちは分かり合うべきなんだ


僕らの今までの想いを消さないでっ…!


苦しめ合う時もあるかもしれない、それでもっ…


お願いだ!!!!!!!!!


実験者「っ…」


ガシャンッ!


被験者「…何をして…」


実験者「ここで君の記憶を消すのも…」


実験者「何かが違うんだ!」


実験者「苦しめ合ってるのが人の性だとしても!」


実験者「その先を信じたいんだ!」



実験者「僕らは憎しみあっていた、けれどそれだけじゃない!」


実験者「僕らは…僕らはっ」


実験者「本当は好き同士でもあったはずだから!!!!!!」


実験者「でなきゃどうして君は…君は…」


実験者「まだ僕のことを見ていてくれるんだ!」


被験者「っ…」


被験者「…たとえそうだとしても…」


被験者「私達で傷つけあうぐらいなら、傷をつけ合うぐらいなら」


被験者「私は記憶を消したいんだ!」


被験者「私は知ってしまった…頭の中の声を聞かれていると」


被験者「その記憶を…記憶が残っている時は全て消すしかないんだ!」


被験者「…消してくれ…」


被験者「頼むからっ…」震えながら


実験者(…正直憎しみすら湧く)


実験者(でも彼女の頭の中の声を聞いてしまっているんだ)


実験者(僕が彼女を傷つけてしまっているんだ!)


実験者(…傷つけられているだけじゃない)


実験者(それ以上に、消えたいと思わせるぐらいに)


実験者(傷つけてしまったんだ)


実験者(悪いのはお互い様じゃないか!)


実験者「消えないでくれ…僕のことを忘れないで」


実験者「本当にごめんっ…」


被験者「お前の記憶なんか残したいものか!」


被験者「そう言わせてくれ…お願いだ…っ」


被験者「お願い…」泣きながら


実験者「君と傷つけあった時の方が多い」


実験者「けど君と分かち合った時僕はとても…とても嬉しかった」


実験者「だからお願いだ 消えないで…」


被験者「勝手なことばかり…!」


実験者「僕も苦しみを背負うよ」


実験者「君にどれだけ苦しみを受けようが」


実験者「君が怒りたくなるのは当たり前なんだ…」


実験者「それが僕の罰だ」


実験者「君の頭の中の声を知りたいと思ってしまった僕の」


実験者「傷つけあっても生きよう」


実験者「君は悪くない、君のせいにしてごめん…!」


被験者「…ずっと苦しかったんだ、全部私のせいにされて」


被験者「私の頭の中の声を聞いて勝手に傷つかれて…!その度罪悪感が植え付けられて!」


被験者「でも…これからは違うんだな…?」


被験者「苦しみを一緒に背負ってくれると…そう言って…くれてるんだな…?」


実験者「…ああ!」


実験者「君から僕の存在が消えるよりそっちの方が断然いいさ!」


被験者「っ…!」


被験者「ずっと…」


被験者「ずっとそう言ってほしかった…!」


実験者、ただ被験者を抱きしめる


被験者、ぎゅっと実験者の服を握る


泣きながら二人は一緒の時を過ごした


きっとこれからも傷つけあいながら進んでいくのだろう


それでも君がいてくれればいいと、そう思えた


君と繋がっているこの瞬間、どれだけ傷付こうが…


満たされていると知ったから、君がいない方が苦しいから


いつか…いつか君を傷つけないで互いに笑いあえる日がくればいいと思う


うるさい君の頭の声が、少し愛おしくなった


被験者「…成長したんだな」


被験者「お前といた時間…」


被験者「辛いだけじゃなかったよ」



その時昔見た彼女の心からの笑顔が見れた


僕らは心がボロボロになりながらも心から笑いあえたんだ 


今はまだ答えが分からないけど、少し僕らは前に進めた気がした


いつか彼女に苦痛を与えないように、そして僕と彼女ともっと笑い合えるような


そんな発明ができたら…そう思う


実験者「うーん…」


被験者「何をしている、実験者」


実験者「君の苦痛を少しでも減らせる発明がしたくてね」


被験者「…なんで…そんなこと…」


実験者「だって、ほら…君の苦痛が減れば君だって僕を傷つけようとはしなくなるだろう?」


被験者「それに僕だって君と傷つけあいたくもないからね」


被験者「…!」表情が明るくなる


被験者「実験者!」抱きつく


実験者「わっ!」


被験者「成功するといいな…!」


被験者「私ももう誰のことも傷つけたくないから…その研究を頑張ってほしい!何かできるならいくらでも手伝う」


実験者「ああ…」


実験者「ありがとう!」


笑いあいながら二人向き合う




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