宝剣

長万部 三郎太

牙折れ、膝をついた

ある国に『畏れ知らず』という宝剣があった。とても古い話だ。

邪気を斬り、災いを払うというその剣は王家に代々受け継がれてきた。



民草想いの王が統治する国はまさに太平。

しかし、そのような国であっても、餓えた隣国は容赦なく襲いかかる。


戦火が城下町を焼いたある晩、混乱に乗じて天守閣に忍び込んだ賊が、あろうことか宝剣を盗み出してしまった。

辛うじて隣国を撃退するも宝剣を奪われたとあっては兵はおろか、民衆にまで動揺が広がってしまう。士気が下がれば二度目は無い。


王は名うての鍛冶職人を呼びつけ、極秘裏に宝剣の複製を急がせた。


再び隣国が攻めてきたとき二本目の宝剣はすでに完成していたが、前線ではある噂で持ち切りだった。そう、「敵の将軍が我が国の宝剣を持っていた」と。

兵は動揺し、市井にまで話が広がる始末。


すぐさま王は町中の鍛冶屋に宝剣を作らせた。

そして量産した剣を兵たちに配り「敵の心理戦に惑わされるな」と激励したのだ。

この逆転の発想が効いたこともあって、長く続いた戦の果てに隣国は壊滅。

しかし、肝心の宝剣はその後行方不明となっていた。



数十年後―。

新たに即位した王は三人の息子に失われた宝剣を探すよう命じた。これは後継者を決めるための試練でもあったが、なにより宝剣は王家の象徴でもあったのだ。


牙折れ、膝をついたといえどもかつての仇国。決して安全ではない。

それでも王子たちは素性を隠し、供も引き連れずの一人旅。


長兄は隣国の山林を踏破して剣を見つけたが、複製された剣であった。


次兄は隣国の荒野を突き進み剣を見つけたが、これも複製された剣であった。


弟は隣国の廃都に潜入し剣を見つけたが、三本目もまた複製された剣であった。



帰国した息子たちを前に、王は誇らしげにこう言った。


「山を征服した者、道なき道を拓いた者、そして敵国深くに斬り込んだ者。

 皆、畏れ知らずである」


こうして持ち帰られた三本の剣は『畏れ知らず』と名付けられ、王家に代々受け継がれる宝剣となったという。





(伝奇シリーズ『宝剣』 おわり)

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宝剣 長万部 三郎太 @Myslee_Noface

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