第11章 家族の朝と、いつものごはん
早朝。まだ空が薄桃色に染まるころ。
優香が台所に立つと、涼しい風が窓から入り込み、濃い草木の匂いが朝を知らせた。
「……さて、今日はおにぎりと、焼きマスと煮物と具だくさんのお味噌汁にしましょうか」
薪をくべ、火を起こしながら、優香はいつもの調理の作業に取りかかる。この世界に来た当初は
畑から採ってきたばかりのナスとピーマンを調理し、昨日干しておいた大根の皮のきんぴらも添える。
やがて、二階からバタバタと小さな足音が下りてきた。
「おかあさーん、にーちゃが布団けっとばしたー!」
「ニナがぼくの枕取ったんだもん!」
「あらあら、まあまあ、朝から元気ねえ……」
優香は笑いながら二人の頭を撫で、二人の間におにぎりをひょいと差し出す。
「ほら、まずはこれ食べて。お腹すいたでしょ?」
「うん!」
「わあ、うめぼしのやつだ!」
嬉しそうにおにぎりを受け取るカイル。
寝ぼけ顔のニナは、おにぎりを両手で大事そうに持って、静かに頬張る。
そのとき、階段の上から静かに降りてきたリタは、手に自分と弟妹とノアのシーツとノアの手ぬぐいを持っていた。
「優香さん、おはよう。これ、洗って干しとくね」
「おはよう、リタ。ありがと、助かるわ」
リタは年齢よりも大人っぽい性格で、いつも気が利きしっかり者で責任感が強い。最近は優香の背を見て、積極的にお手伝いをしてくれて、包丁を持ちたがるようにもなってきた。以前から弟妹の世話もよく見てくれる。私と二人っきりの時は、すごく甘えてくれるときがあるが、まだ10歳なのだから私にもっともっと甘えてくれていいのに、と優香は溜息をついた。
そんなとき――バタン、と少し重たい音がして、玄関の戸が開いた。
「……薪、追加で持ってきました。ここに置いておきますね」
「ノアさん、ありがとうございます。おにぎり食べます? まだ熱々ですけど」
「……いただきます」
不器用ながら座布団に座るノア。優香の家では夏になってちゃぶ台と座布団をユン爺に特注し、日本の居間のような空間も新たに創り出していた。
子どもたちが彼のそばにぎゅうぎゅうと座っていく様子は、すっかり“お兄さん”のそれだった。
「ノア先生、梅干し食べられるようになりました?」
「この前、めちゃくちゃ酸っぱそうな顔してたよね」
「すっぱいの、にがて?」
「……もう慣れた。美味しいぞ」
口数は少ないけれど、確かに増えている。
そして優香は気づいている――彼の声が、少し柔らかくなってきたことに。
にぎやかな食卓。
味噌汁の湯気がふんわりと立ち上り、子どもたちの笑い声がこだまする。
(こんな朝が、いちばん幸せだな)
優香はそう思いながら、椀にもう一杯の味噌汁をよそった。
※ ※ ※
「ごちそうさまでしたー!」
子どもたちの声と一緒に、新しい一日が始まる。
外ではすでに鳥たちがさえずり、遠くから有角羊の鳴き声が聞こえる。
ここは異世界。けれど、この朝は――まぎれもない“家族”の風景だった。
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