異世界掲示板の便利屋さん〜生まれつき持っていたどこへでも移動できる「移動」の能力で異世界に行って異世界掲示板の転生者達を助けていたら、便利屋と呼ばれるようになった件

叩兵

少し先の未来の話 救いの手 side ???



血みどろの戦場で思い浮かぶこと。

それは『死』であると、わたしは答える。

わたしは『死』に直面していた。

思い浮かべているのではない。

『直面』しているのである。

もう数秒で、わたしは死ぬ。

目の前には敵。(名前は知らない)

かなりでかい斧を持ったその敵は、わたしに切っ先を見せ、嘲笑あざわらいながらこう言った。


「ハッハッハこれは傑作だ」

「何が可笑しい。」


わたしは朦朧もうろうとした意識を無理やり叩き起こし、言う。


「いやそりゃそうだろぉ?天下の帝国の軍隊の隊長サマが、こんな山賊なんかにやられちまったんだからなぁ、傑作だろ?ハッハッハまぁオレサマは強いからなぁ一人で軍を壊滅させるくらい楽勝なのさ」


そうなのだ。

わたしは帝国軍の隊長。

軍は壊滅し、生き残ったのは私一人だけ。

そんな私も、もう死ぬ。


「さて、もういいよなぁ?」


斧が構えられ、振り下ろす体勢をする。

わたしは動けない。

四肢は斬られ、血がどくどくと出ている。

これで生きていられるのは、王様が使ってくださった『魔法』のおかげだろう。

だが、その魔法の効果はあと数分で切れる。

どっちにしろ死ぬのだ。

潔く今ここで死のう。

そう思った。

目をつむる。

斧が、振り下ろされる。


「冥土の土産に教えてやる。国王は、おれの仲間が殺しているはずさハッハッハ」


衝撃の事実にわたしは驚愕しながら、それを伝えるすべもないことに絶望し、死ぬことを受け入れようとした


その時であった。


カキン。


という音とともに、見たことのない軽装の服を着ている少年が、剣を持った状態で現れたのだ。


山賊は憤怒ふんぬの表情でこう言った。


「何者だお前は‥‥‥‥」

「名前を出すほどのやつじゃないよ?俺。」


少年はそう余裕そうに返す。


「逃げろ。ここは子供がいていい場所ではない!」


わたしはそう言った。

子供だ。逃さなければならない。

なぜこんなところにいるのかは不明だが、逃さなければ、少年は山賊に殺されてしまうだろう。


「あなたも子供でしょ?なんなら俺より年下っぽいけど?それに俺はコイツに負けるくらいヤワじゃない」


わたしはそう言われてしまい、硬直してしまった。

こんな状況(斧を持った山賊が目の前にいる状況)の中で、そんな軽口を叩くほどの余裕がある少年。はっきりいって異常である。驚くのも無理はないと、自分で自分にはっきり思った。


「そんなこと言っている場合なのかぁ?」


そう山賊は言い、山賊は斧をもう一度構えた。

わたしは身構える。

少年が現れたことで思考がうやむやになりかけたが、今からわたしは死ぬ。

そして斧が振り下ろされたはずだった。


だが。

それを許さない者が一人。


"カキン"。


まただ。

カキンという紛れもない剣撃が鳴り響いている。

それが目の前から鳴り響いていることを処理できない。だって、それは目の前の少年が斧を受け流したということだから。今のわたしは剣を持っていない。四肢を斬られているので持つことすら不可能。


紛れもない彼が、斧を受け流したのだ。


「ったく……『王様』は人使いが荒すぎだ」

「お前は何者だ⁉オレの斧を受け流すなんてありえねえ!何か小細工を使ったのかもしれねえがそんなのはどうでもいい。お前も、軍の隊長サマも這いつくばらせてなぶり殺してやる。」

「とっとと這いつくばらせてやるよ。お前をな。コテハン(コテハンってなんだ?)『王様』からの依頼は、帝国軍の隊長、「ラグノリア」を救うことと、ここにいる軍人たちの蘇生」

「?何を言ってんのかは知らねぇがお前らはなぶり殺すって決めたからなぁ」

「それを妨害する者は………………排除する。」

「絶対に殺す」


"シュン"

という音が聞こえたかと思うと、次の瞬間、衝撃波が起こり、吹き飛ばされそうになる。

どういう原理で衝撃波が出ているのかは分からないものの、どちらも強いということを感じさせる。山賊に関しては、四肢を斬られるくらいには打ちのめされたから分かる。

だが彼はなぜそこまで強いのだろうか。


"ガギィイン"

それから彼と山賊は一進一退の攻防を繰り広げていた。時に彼は山賊が豪快に振るう斧を、山賊は彼がまるで風のように振るう剣をそれぞれいなし、かわし続けながら、攻撃のチャンスをうかがい続けているのだ。


それから数十秒後、先に動いたのは山賊だった。


「このままじゃ埒が明かねぇ『バーサーカー』」


力を込める山賊。

すると斧が漆黒に染まり始める。

山賊が『スキル』を発動したのだ。


『スキル』。

それは人がそれぞれ持っている力だ。

生まれつき持っているスキルもあれば、後々身につくスキルもあったりする。

もしそれが強いスキルの場合は

戦闘だけでなく、様々な場面で使われる。

ちなみにさっき王様が使ってくださったと言っていたのは『魔法』であり、適正がないと使えない。魔法は基本的には戦闘に使われる。

ちなみに王様はかなり珍しい魔法の適正を持っており、一定時間、致命傷を受けても死なないという効果を付与できるという。

わたしが今ギリギリで生きているのは、その魔法のおかげなのである。

そんなふうに誰に言っているのかも分からないことを思っていると、急に山賊が叫び出す。


「グワァアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」


『バーサーカー』。

能力としてはかなり単純で、理性を失う代わりに戦闘力が大幅に増加するというスキルだ。

そして理性を失うことによって獣のようになることで、獲物を絶対に逃がさないという副次効果も発生するという強力さ。スキルの中ではトップクラスの強さを誇る。

理性が消え失せ、獣のようになった山賊は


「コロシテヤル‥‥コロス‥‥ブッコロス!」


と言うと、斧を持っているとは思えないスピードで彼の方に突っ込んでいく。

急いで彼の方を向く。

彼は「ふぅ‥‥」と息を吐くだけで、何もしていない。

そして、斧が彼に突き刺さり、血肉がグシャリと出た






はずだった。

彼はそこにはいなかった。



否、つい先程、数秒前まではいた。

だが

今は

上空そらにいる。

それも、跳んだ素振りもなく急にだ。

そして山賊を斬り裂く。

縦横無尽に。トリッキーに。

予測不能な動きで、何度も、何度も、山賊を斬り裂き、戦闘不能に追い込んでいく。

そして。

山賊が倒れる。

山賊は目を閉じている。死んでいるわけではないようだが、戦闘不能のようだ。

彼はゆっくりと山賊に手をかざす。

すると、山賊の傷を回復させる。

回復魔法だろうか。

だが、なぜ山賊を回復させるのだろうか。

さっきまで死闘を繰り広げた相手だ。

殺すはずである。


思わず口を開く。


「なぜ殺さない」


彼は急に私が口を開いたことにびっくりした様子でこう答えた。


「人を殺したくないから。」


至極真っ当な言葉。

だが、戦場では不釣り合いで、絶対に出てこない言葉。

わたしが封印し、煩悩だとか、出来るわけがないと思い、考えないようにしてきた、その言葉。

出来るならわたしも、人も、動物も、虫も、生きている生き物たちは殺したくない。

だが戦場においては、そんな考えを実行できるわけがない。

そう思っていたのに。

それをいとも簡単に、これが普通であるというふうに実行してしまったこの少年。


ただ単純に、凄いとしか思えない。

ふと、彼の名前を聞こうと思った。

なんでかと言われたら、彼の名前を聞き、繋がりを持っておけば、少しはわたしも彼のような考え方に至れるかもしれないと思ったからだ。

わたしは聞く。


「あの‥‥急なんだが‥‥君の名前は?」


急にわたしに名前を聞かれ、戸惑った様子の彼だったが、答えてくれた。


「名梨転佑(ななし てんゆう)。『異世界掲示板の便利屋』とも呼ばれてる。」


恥ずかしいけどね。と付け加えた転佑は、わたしに手をかざし、回復魔法をかけてくれる。

軍の仲間たちに蘇生魔法をかけ、わたしの手足がもとに戻ったのを確認した転佑は


「山賊のことは、貴方が倒したってことにしておいて。『王様』にはホントのこと言ってもいいけど、『王様』以外には言わないで。じゃあ、また何処かで会えたらよろしくね」


と言うと、森の方へと走っていった。

わたしは転佑を呆然と見つめていた。少しした後、目覚めた軍の仲間に声をかけられ、大丈夫ですか⁉と言われたが、転佑のことは話さず、大丈夫だとだけ返しておいた。













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